「哀の川」 第三十六話
杏子の提案に純一も直樹も賛成した。母親はゆっくりみんなの顔を見てから、杏子に言った。
「嬉しいけど・・・他人さんと一緒じゃ・・・気を遣うから、いやだね。近くに住んでくれれば、何かあっても安心だから嬉しいけど」
「建てたばかりのお家でしょ。お掃除も大変だし・・・佐伯さんは遠慮しなくても優しい人よ。少し考えておいてね。今すぐじゃなくてもいいから」
杏子は、一人で母親を住まわせることが心配だった。それに、かえって純一に気を遣わせて彼が可哀想だとも考えた。ゆっくりと説得して、自分達が同居することが望ましいと、後で佐伯にも話した。彼は賛成してくれた。杏子の親を思う気持ちを第一に考えてくれたからである。
作品名:「哀の川」 第三十六話 作家名:てっしゅう