~双晶麗月~ 【その2】
──気付いた時は、ベッドに座るミシェルの腕の中だった。痣の痛みは消えている。
だが、私の胸のうちは物悲しさでいっぱいだった。
「あの人は!あの人!岩の隙間に入れられてたんだよ!鎖がついて…!」
勢い良くベッド横に立ち上がり、ベッドに座ったままのミシェルの両肩を掴んだ。
「海の底に沈められてるのか?あの人、助けてって言ってたんだよ!助けないと!」
「咲夜、落ち着いて」
「だってさ!あんな暗い海の底に一人で…!助けてって…!」
「咲夜!」
ベッドに座るミシェルは強い口調でそう言って、両肩を掴んでいた私の腕を払い落とした。
「咲夜、まだ早いんですよ。今出てきたら……」
ミシェルは静かに言う。
「何が早いってんだよ!あんな…あんな白い腕をして…きっと、ずっとあの暗い海の底にいたからだよ!出してあげないと!」
「咲夜!落ち着いて僕の話を聞いて!」
ミシェルも徐々に声を荒げる。
「どうしてあと少しで助けられそうだったのに!邪魔したのはミシェだろ!なんでだよ!助けてって言ってたじゃないか!今にも泣きそうな声で!」
〈バンッ!〉
興奮する私を前に、ミシェルはベッドの脇にあった机の上を手のひらでで激しく叩いた。机の上にあったグラスは倒れ、中に入っていた水が机の上から床へこぼれ落ちる。
「今は…とにかく落ち着いて。それから…僕の話をちゃんと聞いて」
私はやっと自分が興奮状態だったことに気付き、ベッドに座るミシェルの隣にストンと腰を下ろし、うつむいた。
「いいですか?まず落ち着いて下さい。今冷たい水を持ってきますから。ちょっとそのまま待ってて下さい」
ミシェルはそう言って部屋を出て行った。
作品名:~双晶麗月~ 【その2】 作家名:野琴 海生奈