~双晶麗月~ 【その2】
「ずっと待っているの…アノ人が来るのを…」
「『アノ人』って誰のことだよ!」
私は気になってすぐに聞き返していた。
「ワタシの婚約者…あの人に逢いたい…」
「婚約者?どこにいるんだよ!」
「カレは…ワタシの分身体を探しているわ…」
「分身体?」
私がそう言うと、岩の隙間からジャラリと鎖の音がして、細く白い腕が出て来た。手首には重そうな鉄の輪。それを僅(わず)かに隠すのは、広い袖口の白い服。肘の辺りで緩(ゆる)く絞(しぼ)ってある。
彼女の物悲しさが流れ込んでくる。
胸が締め付けられるほどの悲しみ…これは彼女の感情……?
「アナタの…腕を見せて…」
そう言われた私は、咄嗟に水を掻き分け、出されたその腕に手を伸ばした。
あと少しで届く、その時だった。
【咲夜!】
脳裏に響く聞き覚えのある声と共に、海の上の方から水の渦が勢いよく降りてくる。
私と彼女が伸ばしていた手は渦に流され、私はそのままその渦に飲まれてしまった。
ぐるぐると竜巻のように渦を巻く水の中で、まるで誰かに包まれているような、そんな感覚がした。
そして、私の周りには、たくさんの白い粒。これは…氷…? ───
作品名:~双晶麗月~ 【その2】 作家名:野琴 海生奈