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山つつじ

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こんな時間の過ごし方もあるのだと、聡子は幸せな気分にひたりながらコーヒーを口に含んだ。お互いにメールのアドレスも交換した。洋平が「混んできたから出ようか」と言うのを残念に思いながら、立ち上がった。

「来月はゴールデンウィークで遊歩会活動は無しだから、今度は6月になるね」
洋平が遊歩会の予定を話す。毎月の始め、土日のどちらかにハイキングに行く会だ。本当は平日の方が空いていていいのだが、まだ働いている人もいるので土日になっている。

「それでさ、二人でつつじでも見に行かない? 皆に内緒で」皆に内緒でという所を低く洋平は言った。聡子はどこかにツンとしたものを感じながら、無邪気さを装って「あ、いいね」と返事をした。
「うーん、じゃあ土曜日がいいかな、場所を調べてみるよ。ああ良かった。うれしいいなあ」と洋平が言うのを、(私のこと少女みたいって、あなたも少年みたいよ)と思うと笑みがこぼれてくる。

「じゃあ、あとで連絡するよ」と言って洋平は、手を振りながら駅の構内に向かった。聡子はその後ろ姿を見ていた。それを分かっていたかのように洋平は、ちょっと立ち止まり手を振ってから、人混みに紛れて見えなくなった。聡子も、小さく手を振ったのだが、もっと大きく手をふれば良かっただろうかなどと思い直す。そんな自分を客観的にみている自分もまたいて、苦笑した。帰宅ラッシュが始まったのだろう、沢山の人々が駅から出てくる。聡子は腕時計を見て、ずいぶん時間が進んでいることに驚いてしまった。


夜になって、洋平から携帯にメールが送られてきた。土曜日に行くことと、ツツジ公園の名前とが記されている。幸子は文字の並んでいる画面を見ているだけで、幸せな気分になっれいるのを感じ、なんだか落ち着かない気分になって、トイレの掃除を始めた。自然に鼻歌が出てくる。
一人息子の修一はいつも夜遅く帰ってくるので、今夕の食事も独りだったが、久しぶりにワインを飲んだ。テレビのお笑い番組をみながら、声をたてて笑った。


作品名:山つつじ 作家名:伊達梁川