山つつじ
洋平が、遊歩会が今までに行った場所などを話しているうちに、駅前についてしまった。聡子はもう少し二人で話していたいことを、告げようか、どうしようかと思いながら、自然に歩みが遅くなった。
「佐藤さん、時間ある?」と洋平が聞いてきたので、聡子はすぐに「あるある」と答えてしまい、少し恥ずかしくなった。
「よかったあ。じゃあ、コーヒー、あ、ケーキ好き?」洋平が洋菓子店の方を見ながら言った。
「あ、好き好き」と聡子はまた、高校生みたいな返事をしてしまったが、そんなことはお構いなしに、洋平は洋菓子店に向かって歩き出した。そのあとを歩きながら聡子は「原田さんはケーキすきなんですか」と聞いた。
「あ、好き好き」と洋平は聡子が言ったような言い方をして笑った。まだ少し緊張のあった聡子だったが、急にらくになった。
ショーケースのケーキを二人で選びながら、夫とはこんな些細なことさえもしてなかったなあと聡子は思った。店の奥にテーブルが四つあって、コーヒー・紅茶が飲めるようになっている。そのテーブルで二人で向かい合うと、また少し照れてしまう。それでもコーヒーとケーキが運ばれてきて、食べながら話をした。
「佐藤さんて、少女みたいだね」と洋平が微笑みながら言った。
「もう、しっかりおばあちゃんですよ。孫はいないけど、シワだって出てきたし」
「いやそうゆうことじゃなくて、雰囲気というか行動が」
「きっと精神年齢が低いんですよ、小学生ぐらいとか」
「ははは、そうかもしれないね」
「えーっ、否定してくれないの」
「あ、口からケーキが飛んだ」
「えっ、ほんとに」
「俺が飛ばしたんだけどね」