山つつじ
「光子さんは、男性二人、両手に花で上機嫌に帰って行きましたよ」と聡子は少しすねたように言った。そのことが洋平に媚びをうっているような気がして、少し恥ずかしかった。
「ははは、花かねえ。皆還暦過ぎているのに」と言って洋平は笑った。
「ほんとねえ、何の花かしら」と自然に話しが出来て聡子は嬉しくなった。
「まあ、草じゃなくて木だろうね、老木でも花は咲くからね」と冗談ぽくではなく真面目な顔をして、洋平はそう言ったあと「佐藤さんは、まだ入会して日が浅いから知らないかもしれないが、ほとんど死別したり離婚した人で、結婚している人でも、両方で好き勝手に過ごしている人が多いんですよ」と洋平は言い、「私は離婚ですが」と付け加えた。
「ああそうなんですか。私は夫と死別です」と言って、あれから何年たつのだろうかと数えてみた。4年が経っていた。いちいち数えないと分からないぐらい過去のものにしている自分にも呆れてしまう。小さな会社の経営者であった夫とは密な時間を過ごした記憶がない。思い出してみても、結婚してすぐに妊娠、出産、子育て、義父母の介護、夫の死などであっという間に過ぎ去ってしまった気がする。
「あ、ちょっとカギを返してきますから、待ってて下さい。一緒に帰りましょう」
そう言って洋平は小走りに事務所に入って行った。聡子は、男性と二人きりでこんなふうに話をしたのは何年ぶりだろうと思い出してみたが、亡くなった夫とは、自分が二十歳で、伯母の勧められるままに結婚してしまったので、出てこなかった。
「ありゃあ、私って、情けない」と軽く思えるのも洋平と一緒に話ができ、これから一緒にどこかに行けるかもしれないと思って、高揚しているんだろうと思った。
長身で、やや猫背の洋平がこちらに向かってやや早足で歩いてくる。聡子は、できるだけ長く一緒にいたいなあと感じている自分に気づき、それから洋平がどこまで一緒にいてくれるのか心配になった。このコミュニティセンターから自分が住むマンションへは私鉄の駅を通り抜け、反対側にあった。洋平の住んでいる所は知らない。