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一羽のココロと理不尽なセカイ

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 消えていったのだった。
 
 
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「・・・・・・・」
 目の前が真っ暗だ。俺は一体どうしちまったんだろう。
 何も無いただ闇だけが広がる世界。ここはどこだ?俺は・・・確か御坂と、そうだ御坂は?
『また会ったね』
 ぼうっと俺の前にうっすらと人の影のようなものが現れて、小さく呟いた。
「あんたは誰だ?俺は一度も会ってないが?」
 俺が質問するとその影は首を横に振り、落ち着いた口調で話を続ける。
『大丈夫、きっとまた会えるから』
 そういって、影はすうっと闇に飲み込まれるようにして消えてしまった。
 すると同時に、耳元で誰かが呼ぶ声。
「・・・・・おかくん・・・・お・・・・てよ・・・」
 目を覚ますと、そこには御坂がいた。
「あれ・・・俺は?というかここは・・・」
 そう、ここは紛れもなく精神世界だった。鉄の鎖で閉め切られた玄関口、銃弾の痕が
 残る外壁。俺の知っている、もう一つの小松原高校だ。
「相当うなされていたよ?大丈夫?」
「ああ、少し変な夢を見てね」
 御坂と共に立ち上がると、彼女の手からひらりと一枚の紙切れが落ちた。
 例のあの紙だった。しかし妙な点に気がついた。殴り書きでさっぱり読めなかった字が
 まるでプリント字体のように綺麗でリズミカルな字が書かれていたのだ。
「御坂、これはどういうことだ?俺が見たときは字がめちゃくちゃで・・・」
「平岡君もこの世界の人だったし、もう隠す必要は無いか。これは作戦指令書。この中に
 とても重要な機密文章が書かれているの。要は、精神世界で起こる戦争の源って感じ。
 現実世界でこれを見ると、ただの子供の落書きのように見えてしまうのは、他世界への
 情報漏れを避ける為に施されたマインド独自のシステムってわけ。・・・って、平岡君、
 今『俺が見たとき』ってやっぱり見たんだ!」
 御坂は大きな声で、さらに哀れむような表情で俺を見ながら叫ぶ。
 何もそんな顔しないでくれ、俺なりの優しさだったじゃないか。
 ふっと後ろを振り向くと、丁度龍司がこちらへと歩いてきた。玄関の前に立つ一人の男
 も、茶色いコートをゆらゆらと泳がせ、俺たちの方へと足を運ぶ。
「東馬、おかえり。現実世界では一体どれぐらい過ごしたんだ?」
 龍司が問う。
「えと・・・3日間かな」
「3日?やけに決が早いな」
 正確には、御坂が無理矢理ここへ連れてきた。と言うべきだが。
「龍司、その隣の方は?」
「ああ、こいつは・・・・」
「ジャックだ。1―Aで主力部隊を率いている。新入りがいるって聞いたんでな、一度
 どんな面してるのか拝見しにきたってわけだ」
 ジャックと言う男は鋭い目つきに低い声で、とても同い年には見えなかった。
 軽い挨拶を終え、俺とその他3人は教室へと戻った。するとドアを開けるやいなや、
 龍司は大きな声で整列する部隊全体へ号令のような言葉をかけた。
「いいか、今回の作戦は防衛が主な任務となる。そこで、A班とB班は分かれてそれぞれ
 学校の周囲を警戒。C班とD班とE班は校内及び屋上、グラウンドにて他クラスの
 部隊と合流し警戒にあたれ。なお重要になる今回の好餌社の動きだが・・・」
 龍司はそこで言葉をにごらせた。すると彼は横目で俺を一瞬見て。
「チームマインドを校外へ派遣する。やつらの出方を監視し、動きがあればすぐ俺に
 連絡するように。作戦開始時刻は今から7時間40分後だ。健闘を祈る、以上解散」
 すると教室にいた50名ほどの隊員達は、速やかに各々の部屋へと戻っていった。
「あの、俺は何をすれば?」
 俺は龍司に疑問を問うた。
「お前をチームマインドに配属させる」
「なっ!」
 教室を出ようとしていた恭介が声を跳ね上げた。
「龍司、お前東馬にいきなりマインドの仕事をやらせるつもりか?」
「何か不服か?この世界を知るには丁度いい」
「そういう問題じゃねぇだろ」
 俺は若干蚊帳の外気味だったせいか、おどおどしながらも二人の間に割って入る。
「あの、チームマインドって何?」
 二人はふと表情をゆるめ、片方の恭介が説明にうつった。
「チームマインドっていうのは俺たちの組織マインドの主力部隊のことさ。毎回作戦の
 時には最も危険な任務を受ける、最強部隊だ」
 話を聞いて背筋がぞっとした。
「名誉なことだ。東馬、出来るな?」
 俺の表情を窺うようにしながら龍司は顔を近づける。
「おい龍司・・・!」
 恭介が文句を言おうとした時、俺は彼の右腕を掴むと、首を縦に振った。
「俺、チームマインドに入ります」
「おいまじかよ、無理しなくてもいいんだぞ」
 心配する恭介は、目を細めながら俺の目を直視していた。しかしながら俺は一度言われ
 たことに「嫌だ」と言えない人間で、頼まれるようにして告げられた宣告に、
 ノーサインを出すことは無理に等しかった。勿論、喜んでやるような仕事じゃない。
 出来ればこんなの御免こうむりたいのが現実だ。そんな所が俺の嫌なとこだった。

 そして龍司は手を軽く振り、ジャックの肩をポンと叩くと、教室から出て行った。
 壁にもたれかかっていたジャックは、そのまま俺に語りかける。
「ちなみに俺がチームマインドのリーダーだ。よろしくな」
「よろしく」
 はっと辺りに目をやると、御坂がいないことに気付いた。
「御坂は?」
「御坂なら全員が解散したとき一緒に部屋に帰ったぞ」
 それから俺は恭介と他愛ない会話を続けた。女子寮は別にあるとか、銃器保管庫は
 音楽室にあるとか。きっと俺は不安で不安で仕方なかったから、気分を紛らわそうと
 必死だったんだろうと、そう気付いたのはそれから数分後のことだった。
 
そう、あの事件が起こる前に。

 
               4
 
 
 作戦開始まであと4時間30分。俺はある異変を感じていた。落ち着かないというか、
 自分の部屋にいるのにも関わらず気分が全く晴れない。それは作戦時間が近づいている
 からというわけではない。そう、部屋に戻るはずの恭介が3時間も姿を現さないのだ。
 30分もすればすぐに戻ると思っていたが、これだけ帰ってこないとなるとどこか
 違う部屋にでも行ったのだろうか?
 少々心配になり先ほど登録したばかりの恭介のアドレスに電話をかけてみる。
 しかし携帯の耳元から聞こえてくるのは呼び出し音だけ。
 5回ほどかけ直してみたが、一向に出る様子は無かった。ただ気付いてないだけなのか、
 それならばまだしも、もし何か彼に危険が生じていたら・・・。
「龍司に言うべきか?いや、もし大したことじゃなかったら無駄に隊員の神経を乱してしまう」
 俺は結局龍司には報告せず、愛井香のいる保健室へ足を運んだ。
「失礼します」
「あら、東馬君。どうしたの」
 白衣を着て車イスに座った愛井香が踵をかえすように振り向いた。
「あの、薬師寺恭介という人の事なんですけど・・・」
 俺は3時間前から不安になっている種を愛井香に打ち明けた。
「なるほどね、それで私か」
 愛井香は机の引き出しからなにやらぶ厚いファイルを取り出すと、「や」行に指を挟む。