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一羽のココロと理不尽なセカイ

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 龍司がおっぴらにそう言うと、隊員達の士気が高まったようで、「おー」だの「わー」
 だの思い思いの感情表現で喜びを表した。
「そういうわけで、ホラ」
 龍司が俺を皆の前へ押し出す。
「えと・・・平岡東馬です、これから色々お世話になりますが、よろしくお願いします」
 深々と頭を下げると、拍手の音がクラス中を包んだ。
「時に東馬、お前はこの世界と現実の世界との時間軸についてはまだ知らないよな」
 龍司はそう言うと、俺を教室の端の掃除用具入れの前に呼んだ。
「この精神世界、つまりは今現在この世界での時間において、お前がいた元の世界、
 現実世界との時間の差は広がり続けているんだ」
 首を傾げる俺を見て龍司は一息つくと、再び詳しく説明をした。
「要は、お前がこの世界にいる間は、現実世界の時はお前が精神世界に来たときの時間
 から止まったままなんだ。逆にお前が現実世界にいる時、お前にとっての精神世界での
 生活時間はその現実に戻った瞬間から止まった状態になる。今はゲートキーパーが不在
 で、時間軸の整理がうまくつかないようだが…」
「なるほど」
 うんうんと俺は相づちを打つ。
「因みにこの掃除用具入れは、唯一現実世界との間を繋ぐドアになっている。試しに
 入ってみるか」
 そう言うと龍司は俺の背中をポンと押すと、吸い込まれるようにして俺の身体は
 掃除用具入れの中へと消えていった。


             4


 気がつくと、そこは学校の教室だった。座り込むようにして掃除用具入れの前でへこ
 たれていた。
 周りを見渡すと、黒い防弾ベストで武装した人達ではなく、俺と同じ制服を着た生徒
 達が、昼休みの時間を有意義に過ごす光景が広がるのであった。
「そうだ、俺、龍司に言われて・・・戻ってきたのか」
 呆然とする俺の背中を叩いたのは俺の親友、猪瀬智也だった。
「どした東馬?そんなところでへたりこんで」
「ああ、いや、何でもない」
 精神世界と現実世界だっけな?この2つの世界の間には時間差は生じないらしいし、
 久しぶりにも感じられる現実の世界でのんびりするのもいいだろう。
 というわけでその日の放課後、俺は一人図書室に足を運んだ。
 ある本を探していると、反対側の棚奥に人影が見えた。
 隣のクラスの御坂唯だった。ツインテールに金髪と覚えやすい容姿なので、俺が
 入学してからここ3ヶ月が経つが、他クラスの中でも彼女は一番に覚えたかもしれない。
「御坂か?何してんだ?」
 すると御坂は慌てた様子で何かを隠した。
「何でもないけど?平岡君は?」
「この学校の歴史をね、ちょっと知りたくて」
「へぇ平岡君って歴史とか興味あるんだ」
 別にそういうわけではない。ただ、もしかしたら何か精神世界のことに似たような
 内容が書かれた本が無いかと、探していただけだった。
「私も歴史好きだよ。過去に起きた出来事が今に繋がってると考えると、何だか知らずに
 はいられなくて」
 御坂は何やら用が済んだかのような様子で先ほど何かを隠し入れたバッグを右肩にかけた。
「じゃあ平岡君また明日ね」
「ああ、じゃあな」
 御坂が図書室を去った後、先ほど彼女が座っていた棚奥の机の上に紙切れが丸めて置い
 てあるのに気がついた。
「何だこれ?」
 手にとって広げてみると、紙にはペンで何かの殴り書きが残されていた。
 あまりにもぐちゃぐちゃに書かれていたので、内容は全く読めなかった。
 まさかとは思うが、これ御坂が書いたんじゃ?
 憶測で物事を図るのは良くないと思うが、気がつけば俺は少し彼女のことを疑問視するようになっていた。
家に帰ると、思わずそのまま持ち帰ってしまった、御坂が書いたと思われる紙切れを
再び机の上に広げていた。
「何してんだ、俺」
 自問自答を繰り返す約60分間程の時間がそれから続いたが、結局何も答えは出ずに
 母から夕飯の知らせを聞くまで、俺は図書室から適当にぶん取ってきた小説を読み
 ふけた。
 
 
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 次の日の朝、目が覚めると広がったのはいつもの光景。
「そうか、俺、現実に戻ったんだっけ・・・」
 ベッドから体を起こすと、昨晩までにらめっこしていた紙切れが広げたまま机に置かれていた。
 支度を速やかに済ますと、玄関を出て学校までの長い下り坂を下りる。
 学校に着くと、授業までまだ20分もあり、御坂に会いに隣の教室に向ったが、
 教室には彼女はいなかった。
「流石に早すぎだったか」
 自分の教室に戻ると、丁度智也が登校してきたところだった。
「東馬が他クラスに入るなんて珍しいな。気になる子でもいるのか?」
 ニヤケながら含み笑いする智也の質問は、鋭いことに間違ってはいなかった。だが
 こいつはきっともう一つの意味で問いかけてきてるのだろうと、俺は「ノー」と答えた。
「智也は、何か聞いたこと無いか?この学校の歴史とか、不可思議な現象が起きるとか」
「あるね、小松原高校7不思議。まぁ、全部知ってるわけじゃないんだけどな、3つばかり聞いたことあるぜ。図書室の棚奥に隠された陰謀とか、夜の食堂に現れる白装束の
 男とか、掃除用具入れは異空間に繋がってるとか・・・」
「それだ」
 俺は思わず声をあげた。
「その話、もっと詳しく教えてくれ」
 するとその時、運悪く1限目の始まりのチャイムが鳴ったのだった。
 
































    失踪事件
 
             1
 
 1限目が終わると同時に、智也は教室から姿をくらませた。
 例の話を聞くことが出来なくなり、少々脱力気味だった俺の机の前に、御坂が現れた。
「歴史少年、どうしたの落ち込んじゃって」
「落ち込んでるわけじゃないよ。それより御坂、お前昨日図書室で忘れ物しなかったか?」
 そう言うと、彼女の表情に変化が見えた。
 明らかに動揺している。
「な・・何を忘れたって?」

 御坂が震える手を押さえながら俺に問う。
「何って、これなんだけど」
 俺がバッグから昨日図書室で拾った紙切れを机の上に置くと、彼女は取り乱しながら
 その紙をスッと手に取りポケットへ押し込んだ。
「・・・・見た?」
 普段よりも数段低いトーンで問い詰める彼女に、「見た」何て言えるはずも無かった。
「いや、見てないけどさ。もしかしたら御坂のかなぁって」
 我ながら苦しい避け方だ。
 しかし彼女はホッとしたかのように溜息を漏らすと、落ち着いたのか、2限目の始まり
 のチャイムが鳴ると同時に、笑顔で隣のクラスへと帰っていった。
 やはりあの紙切れには何か意味があるようだな。
 2限目の授業が始まり、教科書とノートをバッグから取り出そうとした時、ノートの
 隙間からポトリと何かが落ちた。
 さっき御坂に渡したはずの例の紙切れだった。
「しまった、間違って御坂に、俺のノートの紙を渡しちまった」
 授業が終わったらまた渡しに行こう。
 それから2限目が終わるまで、智也が教室に姿を現すことは無かった。
 
 隣のクラスへ行くと、御坂が黒板の前で女子と会話をしていた。