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一羽のココロと理不尽なセカイ

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「ああ、その・・・さっきは軽いこと言って、ごめん。俺、決めたよ。この世界で戦う」
 龍司はホッとしたような表情を浮かべて俺の両肩を掴み、目を直視しながら歓迎の
 言葉を言った。
「でもどうしていきなり」
「実は、さっき保健室で愛井香さんと会って、その時に箱を開いてさ」
 龍司は目を丸めた。
「お前、まさかあの箱を開けたのかっ!?」
「え、あ・・まぁ」
「運命を知ったってとこか」
 正直、運命なんてまだ実感はわかなかった。むしろまだ無理矢理入隊させられたような
 気分でもあった。が、この世界で生きていくことで何かがつかめる気がして、真実や
 この世の成り行きをこの目で見たくて俺は決心したのだと思う。
 でなければこんな物騒な世界、すぐにでも出て行きたいし、無論戦いたくも無い。
 この世界に可能性を感じた俺は、この時龍司からもらった拳銃に志を込めた。
「入隊するなら、ウチのクラスの奴等に挨拶しなきゃな」
 そう言うと、龍司は俺の背中を軽く叩き、にやけた顔でそのまま俺を地下室のような
 所まで案内した。入り口は現実の世界で俺がよく友人と昼飯を食いに来る場所だった。
 しかし本来ここには入り口、つまりドアなんてものは無く、この世界にだけ存在する
 オリジナルのオブジェクトだった。
「といってももう夜遅いし、自己紹介は明日だ。今日の所はとりあえず・・・えと、名前
 まだ聞いてなかったな」
「平岡東馬。東馬でいいよ」
「じゃあ東馬、今日はここの部屋で休んでくれ。この地下室にある部屋は全て隊員の
 部屋になっている。入隊した順に部屋に入れられるから、東馬は一番最後尾の部屋だ。
 わかりやすいだろ?まぁ次に入隊してくるやつがいればすぐにでも寂しさは紛れるさ」
 地下室は、どこまでも続くような長い通路のようになっており、ドアは近未来を
 思わせるようなチタンプレート式で出来ていて、この世界の技術力を身をもって実感
 した。
「でも龍司、この部屋既に名前が書いているが?誰か入っているんじゃないか」
 名前板には薬師寺恭介と書かれていた。
「ああ、一部屋二人で生活だ。まぁ後はお前が何とか、挨拶するなりなんなり。
 第一印象は大事だぞ」
 笑いながら龍司はその場から立ち去った。
 妙に緊張してきた。初対面の人との接し方は、人生であまり経験が無い。
 どう入ればいいんだ?軽い感じで入室?それとも最初だから敬語で丁寧に挨拶した
 方が・・・?
 するといきなり部屋のドアが開いた。
「んう?誰っすか?」
 歯ブラシをくわえながら俺を観察するようにして出てきた赤毛の男は、俺より年上の
 ような面持ちだった。
「あっ、えと、俺平岡東馬っていいます。今日からここの部屋に住まわせてもらう・・・」
「おっ!ってことは新しい入隊者かっ!いやぁ〜助かった。俺が入隊してから誰も
 この部屋に来ないからとてつもなく寂しかったんだ!最高だっ!まぁとりあえず
 入れよ」
 思いの他気さくな人だった。思わず敬語で堅苦しく接してしまったせいでいつ言葉を
 砕けばいいのか、タイミングを計る俺だった。
「俺、薬師寺恭介。って、ドアの横に書いてあったか」
「あ、ああ。そうですね」
 嗚呼、俺は一体何語を喋っているんだ。確実に相手は年上だ。軽い口調で喋るのは
 失礼だとはわかっていても、これほどにも堅い喋り方じゃこの人とつりあわない。
 頭の中をくだらない悩みが渦巻く。
「東馬、お前そんなに気ぃ使わなくていいぞ。もっと楽にしろ」
 救われた瞬間だった。
 
 
                3
 
 
 翌朝、目が覚めると恭介が丁度着替えをしていた。
「やっと起きたか、そろそろ飯の時間だぞ」
 慣れない部屋の中を見回す。
「ごめん、今着替え…」
 とは言ったものの、自分の着替えなんて無いことに気がついた。
 今着ている服だって、昨日からずっと着っぱなしだった。
 仕方なく今着ている服のまま、恭介と食堂に向った。部屋から地下室に出ると、
 まばらに隊員の姿が見えた。
 朝食は1階の食堂で行われる。
「恭介は、ここに来てどれぐらい経つんだ?」
 俺は食堂に向う途中に聞いた。
「5ヶ月ぐらいかな、最初はそりゃあもう何が何だかわからなくて戸惑ったけどな」
 まるで今の自分のようだった。
「さあ着いたぞ、ここが食堂だ」
 その規模の大きさに驚いた。どうやらここも現実世界とは違っていて、そこはまるで
 巨大ホールのような創りになっていた。食堂にはざっと5千人はいて、厨房のほうも
 かなりの賑やかさのようだった。
「この食堂には6千人弱を収容出来る。まあ消費者としては5千人で、厨房で忙しく働い
 ているのは二百人ぐらいだ」
  恭介によると、本来は食堂で座る場所は決められているらしいが、ほとんどの隊員が自分達の好きな場所に移動して食事をとるシステムになってしまっている。
 俺はビュッフェ式の朝食に、トレイを滑らせながら好きな食べ物を皿に盛った後、テーブルに戻り恭介が来るのを待っていた。
 すると俺の横を通りがかった一人の眼鏡をかけた男が、俺を見て小声で呟いた。
「平岡・・・東馬か・・・」
「何でしょうか?」
 俺がその彼に声をかけると、男は睨むような目つきで俺を凝視し、さげすむような表情
 で言う。
「お前みたいなヤツがどうやってあのレコードボールを・・・」
「いやぁおまたせおまたせ。パンのコーナーがやたら混んでてよ・・・って風森、お前
 東馬に何の用だよ」
 恭介の声のトーンが急に低くなった。
 風森と呼ばれた男は「ふん」と鼻で笑いそそくさとこの場から離れ、食堂から出た。
「恭介、今の人は・・・?」
「風森真二。1―Cの最強狙撃主って言われているエーススナイパーさ。腕は確かに
 最高なんだけどな、仕事のせいでもあるんだろうけど、生真面目かつ性格が破綻
 しててな、他クラスからは嫌われてるんだ」
「風森真二か・・・」
 俺は箸を手に取り皿に乗せたおかずをひょいとつまむと、次々と口へと運んだ。
 
 朝食を終えると同時に、恭介は「時間だ、行くぞ」とだけ言い、ずかずかと廊下を
 進み始めた。気にしていなかったが、よく見ると心なしか周りの隊員もざわついていた。
 恭介が言うには、これから各自のクラスにて作戦会議が行われるらしい。
 妙な緊張感がわいてきた。
 俺はただ恭介の背中だけを見ながら彼の後をついていく。軽く早歩きだった気がする。
 ふと我に返った頃にはもう既に1―Aの教室の前だった。
 戸を開き、整然とイスに並び座る隊員達およそ50名が目に映る。
 その中からひそひそ話しのような声も聞こえてきた。
「おい、例のあの箱開けたのってあいつか?」「レコードボール使えるんだろ?」
「すげぇやつがウチのクラス来たもんだ」などといった内容が主な会話の内容だった。
 すると教卓の前に立つ龍司が俺の傍までやってきて、軽く俺の肩を叩くと隊員達に
 向って説明をし始めた。
「皆、こいつが、新しくこの1―Aに配属された平岡東馬だ。何人かはもう既に知って
 いると思うが、彼は噂通り箱を開き、レコードボールを手にした。これは勝戦局の風が我々に吹いてきたと言っても過言ではない」