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一羽のココロと理不尽なセカイ

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 呆気にとられながらも冷静に問う。
「魔法を見たことがないのですか、無理もない。人間の世界では魔法なんて絵空事でし
 ょう。ここケーヌに住む人間ですら魔法を信じる者はいません」
「不思議な話ですね、何でですか」
「人間は自分が作った固定概念から抜け出せないからですよ。魔女と聞いただけでソレは
 人間と違う、違うから悪いやつだと勝手に思い込み追い出す。そのせいで人間はいつ
 しか魔法というキーワードをどこかに無くしてしまったのです」
 アドリは目を大きく見開いて俺に迫るように指を突き立てる。
「でもあなたは良い人だ。なぜか心が許す。人間は嫌いなはずなのに」
 どこか寂しげな彼の表情には裏は無かった。
 アドリが淹れた紅茶のカップに手を伸ばし、一口目を飲み始めた時、部屋の奥の大きな
 扉がきしきしと音を立ててゆっくりと開いた。
 開いた扉の先には黒いローブに身を包んだ一人の女性が、一本のろうそくを片手に
 こちらへと足を進めた。
「アドリ、そこにいるのは誰です?」
 彼女の目はアドリや俺のほうを向いておらず、少し上のほうを見ている。
「アレシア様、この者は人間ですが決してあのような俗者では…」
「わかっています、平岡東馬ですね。あなたが来るのはわかっていました」
 どうして彼女が俺の名前を知っているのか、内心ビクリとした。
 アレシアと呼ばれた女は、持っていたろうそくをテーブルに置くと、懐から杖を取出し、
 目をつむって俺の右ポケットをその杖先で軽く弾くように叩いた。
「原且(げんそ)を感じます。あなたは世界の“守り手”なのですね」
「原且?」
 アレシアは目をつむったまま言葉を続ける。
「世界が存在するための理(ことわり)のことです。あなたが持つ白の宝玉は、原且を変動させる力がある。それをどう使うかはあなた次第なのです」
「白の宝玉って、レコードボールのことですか?世界を変動させるなんて話聞いたこと
 ありません」
 アレシアの目がうっすらと開き小さく微笑むと、アドリがイスをつんと突きアリシアの
 もとへ滑らせた。
「この精神世界を創りだしたのはその白の宝玉自身。砕けばこの世を無にすることも
 出来るのです。平岡東馬、唯一あなたがそれを判断する権利を持ちます」
「待ってください、そんなことをしたらこの世界にいる人間はどうなるんですか」
「無論全てなかったことになります。しかし使い方次第で、新たなセカイを創造する
 ことも出来るんです。すいません、白の宝玉の使い手と会うのは初めてなもので、
 無駄話が過ぎてしまいました」
 アレシアはイスに腰掛け、脱力したように嘆息した。
「大丈夫です、むしろ新しい情報が知れて感謝しています。あの、実は俺、友人とはぐれ
 てしまって…2人の男女を見かけませんでしたか?」
「すみません、私、目が見えないものですからそのようなことはわかりかねますが、村の
 ほうから、感じ慣れない人間の心臓の鼓動が2つ。ここから南東に行った所です」
 指をさしながら目をつむるアレシアを見て、アドリが玄関のドアを開くと、彼も何かを
 感じ取ったのか、俺の目を見て手招きをする。
「私が案内しましょう。微睡の森は、人間一人が歩くのには危険ですので」
 にっこりと笑みを浮かべながら、アドリはそそくさと屋敷から出た。俺はアリシアに
 小さくおじぎをすると、彼女もわかったのかスカートのすそを掴み上品におじぎを
 返した。
 
 アドリと森を歩いていると、時たま木々のささやきに眼をつむりかけるが、その度に
 アドリが小さく何やら呪文のような言葉をつぶやいてくれて、なんとか森をぬけること
 が出来た。するとそこには小さな集落があり、アレシアが言っていたであろう村に
 到着した。村人は俺を珍しそうな目で見ていたが、しばらく喫茶店で過ごしていると
 彼らも落ち着いたようで、視線は気にならなくなった。
「アドリさん、2人は一体どこに?」
「はて、先ほどまでこの村にいたはずなんですが…」
 心なしかアドリの手が小刻みに震えているように見える。妙な雰囲気に気づいたのは
 もうまもなくの事だった。
「体が…っ」
 足から体全体にかけて強烈なしびれが全身を襲った。
「アド…リさん…助け」
「申し訳ありません…東馬様」
 俺の意識が無くなる瞬間に見えた彼の表情は、涙をこらえる赤子のようだった。
 
 
    




               4


 牢屋の中、俺はうつむき漆桶の時を過ごしていた。アドリが俺を騙すような事をするなんて想像も出来なかったからだ。ジャックにしろ今井にしろ、こういったことが多々
 あると少々気分も落ちてくるものだ。すると、隣の牢との仕切りの壁が少しほころびた
 部分から隣の牢の様子がうかがえることに気が付いた。ほころびから見える一人の女性。
 それは紛れもない御坂だったのだ。
「御坂?御坂かっ、何でこんなところに」
「平岡君っ実は朝早くに出航したんだけど、針路がわからなくなって、村に立ち寄って
 ガデルにいくにはどうすればいいか聞こうと思ったら…いきなり不審者だと言われて
 今に至るってわけ」
 何て強引なんだ。それにしても、俺は人生で一体何度牢屋に入れられるのだろうか。
「俺は2人を探そうとして、森に入ったんだ。そこで…魔女と会った」
「魔女?もしかして、ルーセリナ・アレシア様のこと?」
 えらく食いつきのいい御坂に一歩引き気味になった俺だが、彼女は話を続けた。
「あの方は元世界の守り手なの、今の平岡君と同じね」
 それは妙な話だ、アレシアは白の宝玉の使い手と会うのは初めてだと言っていた。
 御坂が言っていることが本当ならどうして俺にあんな嘘を?
「それで?彼女とは何話したの?」
 目を輝かせて壁に顔をこすりつけるようにして歩み寄る御坂。顔が台無しだ。
「さぁな、原且がどうとかだっけな」
「原且…世界の理ね」
「知ってるのか」
「ええ、でもほとんど忘れちゃったわ。私歴史苦手だから」
 苦い顔をして壁にもたれかかる御坂。
「なあ、風森はどうしたんだ?」
 先ほどから彼の姿が見えなかったので、少し心配になっていた。
「村を探してる途中にいなくなっちゃったわ。本当こういう時に限って運良いわねあいつ」
 溜息を洩らしながら怒っているのか呆れているのかの境目を、御坂は彷徨っていた。
 会話が途切れ、再び沈黙の間が俺と御坂に降り注ぐ。しばらくして、ふと御坂がいる牢とは反対側の壁がそうとうもろくなっているのに気が付いた。まるで一蹴りの衝撃を
 与えればすぐに崩れそうな気がした。俺は急いでその壁に体当たりを繰り返した。
「平岡君、何やってるの?」
「この壁…かなりもろいみたいだ」
 最後に渾身の力で壁にタックルしたところ、思った通りに壁はがらがらと騒音を立てて
 崩れた。そして幸いなことに崩れた壁の先は牢ではなく、外に繋がっていたらしい。
 俺は外に出て、御坂を牢から出すために使えそうな道具を探した。
「平岡君、誰か来るわ。ここはあなただけでも早く逃げて」
「でもそれじゃあ御坂が…」
 御坂はニコッと何かを確信したような笑みを浮かべた。それを見た俺は不思議と安堵し、