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一羽のココロと理不尽なセカイ

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 意外といえば意外なのだが、彼女が船を運転出来ることの意外性に開いた口が塞がら
 なかった。
「まぁこの世界で免許はいらないからね、感で操作してたらいつの間にか出来るように
 なってたの」
 いつの間にか出来るものなのか、俺も一度練習してみたい。
「それより御坂、俺たち…」
「ガデル・オロに行きたいんでしょ、早く乗りなよ」
 ひょいと船の船首に彼女が飛び乗ると、操舵室に入り、早くこいと言わんばかりに
 手を振ってきた。俺と風森はお互い一度見合ったが、すぐさま御坂の船に乗り込んだ。
「船だと4〜5日はかかるわ、大丈夫?」
「もう後には退かない、進む以外、道は残されてないんだ」
 御坂はにこっと小さく微笑むと、エンジンをかけ船は前進し始めた。
 
    その日の夜…
 夜の海はとにかく静かで暗い。数メートル先が闇に包まれていて、静寂とともに
 不気味さを増していた。
「東馬、夜の内は出来るだけ船内にいろ。夢が現れるのは陸地だけじゃない」
 御坂が操縦するこの船は、3人で乗るにはとてもじゃないが勿体ないくらいの巨大な
 船体をしており、ふと観光船を思わせるほどの大きさである。
「夢って、こんな大海原にもいるのか?」
 俺は思わず漆黒の海を覗く。
「きゃあ!」
 御坂の叫び声だ。俺と風森は急ぎ操舵室へと向かった。
 御坂のもとへ行くと、彼女はハエ叩きを手に何やらおびえている様子だった。
「でっかい蛾が…」
「はぁ」
 慌てて損したな、夢の話の最中に叫ばれると連想的に悪いことが起きたと勘違いして
 しまう。
「それより御坂、この方向で合ってるのか?」
 ぼそりと風森が指摘する。
 確かに彼女が舵を持っていなかった間に、少し進路がずれたような気もしないでも
 ない。
 平気そうにしている御坂を見ている限り大丈夫なのだろう。
 その後夕食を簡単に済ませ、就寝の時間となりいかりを下ろして船を停泊させた。
 俺たち3人は個々別々の部屋で寝ることになっていて、風森や御坂の部屋は案外
 離れた場所にあった…のだが、どういうわけか午後11時頃、御坂が突然俺の部屋の
 ドアをノックし、どういうわけか手招きをして俺を広い食堂へ連れ出したのだった。
 食堂はほとんど電気がついておらず、自販機などの光でやっと御坂の顔を確認できる
 ぐらいだ。適当な席に座り、お互いが正面同士向き合う形になった。
「夜遅くにごめん、実は以前羽生ちゃんがパラレルワールドで学校をイメージした話
 なんだけど…もしかしたら、彼女は、彼女が過去に望んだことのある景色を創造
 したんじゃないかと思うの」
 御坂が言うには、羽生が生前にやり残したことが具現化したのではないかという
 考えだった。もしそうだとしたら、今井の龍司殺害も羽生自身が望んだ理想形だと
 いうことになる。彼女はどう考えてもそんなことをするような人には見えない。
 が、もし愛井香が言っていた過去において、自分を見殺しにしたマインドを恨んだ
 結果がリーダーである龍司に繋がるとしたら、首を縦に振らざるを得ないだろう。
「もしそれが本当なら御坂、この世界のシナリオは、全て羽生によるものだということ
 だ。流石にそれは無理があるんじゃないか?彼女は味方だろ」
「私は…悪いけど、あの人のことまだ完全に信用出来ていない。いや、これからも信用
 出来ないかもしれない」
 場所が場所なせいなのか、御坂の顔が一層暗く見える。
「疑ってるのか、彼女は俺たちと一緒に戦うことを決めた仲間だろ」
「私だって疑うようなこと考えたくない、でも…仕方ないでしょう、数多く裏切られてき     
 た私たちマインドにとって、外部との接触にどれだけ気を使ってるか」
 ジャックや龍司、風森すら一度敵になった身だ。疑心暗鬼になるのも無理ないだろう。
 それでも俺は、羽生を信じることが出来た。理由はわからない、ただ漠然とそう思える
 のだ。レコードボールを通じて、何かを感じ取ったのか、俺は羽生といると自然と
 落ち着く。それもあって俺は彼女のことを疑ったりはしなかった。
 
    次の日の朝…
 朝日が窓から差し込む。外からは波の音がする、どうやら既に御坂が航海を再開して
 いるらしい。半開きの眼で部屋を出る。とりあえず甲板にでも出て風に当たろうとした。
 が、なにやら様子がおかしい。風森と御坂の姿が見当たらない。
「おーい」
 声を上げてみるが、返事は無い。まさか夢にでもやられたのではないだろうか。
 不安が脳内をよぎったが、甲板に出た瞬間に、それは払拭された。
 船体は、陸地に沿うようにして停泊されていたのだ。夜間の内に着いたようだ。
 しかし変な話だ、4〜5日かかると御坂は言ったはずなのに、一日ほどで既に着いてし
 まうなんて…。
 目の前に広がる大地を眺める。しかし、どう見てもそこに大都市は無く、荒れ果てた
 森が広がっていた。ふと、昨日の会議室での男との会話を思い出した。
 魔女が住むと言われている東の大地、ケーヌ。はやりあの時、御坂が舵を持っていな
 かった時に針路が変わってしまったんだろう。
 半ば呆れまぎれに俺は船を降り、2人を捜索することにした。
 肩から自動小銃をぶら下げて、森の中へと進む。木々に乾いた風が当たりきしみ合う音
 が耳の中に入りこむ。不思議なことにそのざわめく音を聴いていると、まぶたが急に
 重くなり、睡魔が襲ってきた。
「眠気が…」
 体の自由がきかなくなり、俺はその場に倒れこんだ。
 
 
             3
 
 
 目を覚ました俺は、はっと今自分が置かれた状況を確認した。
 こじんまりとした部屋の床に敷かれたシートの上に俺は横になっている。
 確かに俺は森で気を失ったはずなのだが、これはきっと誰かが俺を運んできたのだろう。
 現在位置も把握できないため、恐る恐るドアを開き人を探してみる。
 ドアを開いた先には大きな聖堂が広がっていた。声を出せば響き渡るような高い天井に、
 金色の十字架が神々しく掲げられていて、まさしく教会を彷彿させる創りだ。
 しかし内装という内装はほとんどが黒や金、紫といったグラデーションで施されていて、
 とても明るいという印象には程遠く、むしろ心が落ち込むような印象だった。
「おや、起きましたか」
 ベンチで分厚い書物を読んでいた一人の男が、本を閉じ、こちらを向いて青白く光る不気味な顔でニッコリと笑っている。男は紺色のボロボロスーツに、黒の大きなとんがり帽子を被っていて、まるで悪魔か魔女の使い魔のような容姿をしていた。
「あの、ここは?」
「ケーヌ地方最も神聖な場所、“微睡の館”でございます」
 男は深々と、そして紳士的におじぎをした。
「魔女って…あの魔女?魔法を使う…」
「さようでございます。申し遅れました、私はアドリ、この屋敷の使用人をしております」
「俺は平岡東馬、友達を探しているんだ。船から出てきた男女2人を見ませんでした?」
 アドリはぶっきら棒に考えるような表情を作り答える。
「いいえ、見てませんよ」
 アドリは薪に軽く息を吹きかけると、何もない所から火がつきたちまち暖炉に暖かい
 光が灯った。
「今の、魔法?」