小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

一羽のココロと理不尽なセカイ

INDEX|24ページ/29ページ|

次のページ前のページ
 

 から見て左から順に大きくなるはずだ。しかし彼女が撃たれたのは左首から右肩に
 かけて…もし本当に風森が撃ったというのなら矛盾が起きる。
「一つ…いいかな?」
 俺は自分の考えを皆に報告した。
「しかし、なぜ風森はその時病院に?」
「仕方なかったんだ…」
 風森は小さな声で呟く。
「俺は…平岡のやつがレコードボールの使い手だなんて信じたくなかったんだ。俺こそが
 あの宝玉の使い手だと思っていたのに……。それでいつの日だったか、ジャックから
 好餌社への誘いの手紙を渡されて…あの事件の時に、干渉者の排除役として、好餌社
 から命じられた。でも結局撃てなかった…」
 風森は声を震わせながら徐々に言葉を事の真相へと繋げていく。
「撃ったのは誰じゃったかのう?」
 まるで犯人を知っているかのような言い方で風森を追い詰めるハル。
「ジャック…バードだ」
 その答えに周りはしんと静まり返った。すると龍司が震える風森の傍に行き声をかける。
「安心しろ、お前は何も悪くない」
 風森は不思議そうな表情で龍司の目を見る。
「仲間の心を弄びやがった奴が悪い。そこまで落ちたか…ジャック」
「あのぉ」
 御坂が小さく手を挙げる。
「ところで、村山さんを撃ったのは一体?」
 振り出しに戻ったように皆再び考え込む。
 しかし困ったものだ、坂本氏の誘拐に村山司令官の殺害。まるでマインドが内側から
 どんどん崩れていっているようだ。このままだといつ好餌社に攻め入られるか、それが
 問題である。
 村山司令官を殺害した人物が校内にいるとなると、それはそれで少々面倒だ。
 好餌社に情報が洩れてサイバーテロなんてことが起きれば一環の終わりだ。
「ナユタ、校内全体に呼びかけろ、外への出入り口全てを封鎖、それと全隊員を各自
 自分の部屋へアナウンスが流れるまで待機だ」
 ナユタは急ぎ放送室へと向かうと、すぐさまアナウンスが学校内全域に広がった。
「TMのメンバーは全員ロゲッジに集まれ」
 とのことだったので、俺たちTMは龍司に言われるがままにロゲッジにて待機すること
 になった。
 その後2時間ほど経ったのにもかかわらず、龍司本人だけは未だ集合しなかった。
「何で来ないんだよー、忘れたのか?」
 ラトは普段通り落ち着かない様子でロゲッジの中をぐるぐると徘徊している。
 するとそれから数分後、やっと龍司は姿を現した。
「何してたんだ龍司?心配したぞ」
「ああ、すまん、実は1―A全員に村山氏の死亡時に何をしていたか聞いて回って
 いたんだ。あいにく俺たちのクラスには犯人の目撃者はいなかったようだがな」
 どうやら他のクラスでもこれは実施されていて、これほど時間がかかったのも
 うなずける。
「今は校内からは外へ出られなくなっているから、犯人の脱走はありえないとは思うが」
 龍司のためらい気味のその表情を見て俺は悟った。
「現実世界へなら、逃げられる…か」
「そういうことだ、実際、坂本氏の居場所も、現段階では現実世界だと推測されているし、
 もし村山司令官を殺害した男が、坂本氏を誘拐した同一犯だとすればなおさら坂本氏の
 身が危ういだろう」
 なるほど、龍司がTMだけを集めたのは、俺たちTMが現実世界へ坂本氏の救出に
 向かっている間、もし犯人やそのグルがマインドに潜伏していた場合を考えて、
 彼らを刺激しないように隊員全員を部屋に閉じ込めたというわけか。流石はリーダー、
 こういうとこまで既に計算済みか、俺も見習わないとな。
 その後俺たちTMメンバーは現実世界に戻り、一般市民の服を着て変装を施した後、
 坂本氏の救出に向かったのだった。
 
 
                3
 
 
「東馬、今度は前みたいに足引っ張るなよバァァァカ!」
 ラトの罵声を華麗にスルーしながら、俺たちは再び以前今井のいた研究施設に赴いた。
 小さな物でもいい、証拠や犯人に繋がるのであればどんなものでも。
「ダメだね、監視カメラの履歴もPCのデータも全部消されているよ」
 ナユタはさぞ残念そうな顔をしてイスにうなだれる。
 すると彼が座ったと同時に、傍にあった机の上から一冊のノートが落ちた。
 丁度開いたページには、今井の日々の成果や出来事が綴られた日誌が見えた。
「これ、日記だ、それも今井さんの」
「もしかしたら何かわかるかもしれんのぅ」
 全員が一斉に日記の回りに座り、俺が中心となって読み上げることになった。
『5月4日。今日は薬品開発の依頼が来た。心操薬と呼ばれる人間の心を操ることの
 出来るというものだった。画期的な商品に、我々は心打たれた。主に医療用として、麻
酔薬の代わりになるものだという。麻酔による後遺症の確立を下げる薬らしい。来月か
ら本格的に手をつけていこうかと思う』
 5月…事件が起きる2か月前だ。今井は性格が大雑把なせいか、大きな出来事があった
 日にしか日記は書いていないらしい。次に書いたのは、前の日誌から2週間後ぐらいの
 ことだった。
『5月19日。薬品開発においての説明会を開いた。村松君のプレゼンはいつ聞いても
 安定しててわかりやすい。彼の発想を元に、まずは薬品ベースを作り上げていこうかと
 思う。杉浦さんに報告のメールを打たないと』
 気になる人物が出てきた。村松と杉浦。彼らも少なくとも今井の研究に参加している。
 あとで連絡先を探すことにしよう。気が付けば、次の日記の内容は、今井が殺害される
 3日前の話になっていた。
『7月8日。今日は旧友の坂本君と共に昼飯を食べた。2か月ぶりの再会だった。彼から
 心操薬の依頼を受けた時は、あんなの出来るはずないと思っていたけど、今日彼と
 話して少し頑張れるような気がしたよ。ps・今この日記を読んでいる君たちは、
 既に渦の中に入ってるよ』
「そういうわけだ、平岡東馬」
 俺の高等部に銃口が冷たく当たった。
 死んだはずの今井が、後ろから今まさに俺を殺そうとしていたのだ。
「待てっ!待つんじゃ、何故お前さんが生きておる?」
 取り乱しながらハルは今井に銃を向ける。
「わかんないかなぁ?私は一度も撃たれてなんかない。あの時病室で殺されたのは私
 じゃない…坂本だよ」
 俺はふと事件当日の今井だと思われた死体を思い出していた。顔には布がかけられて
 いて、本人だとは確認していなかった。じゃあ、あの時の男は坂本氏?
「でも、ボイスレコーダーと盗聴器は確かにあなたたちの会話を拾っていた。あの時の
 叫び声は確かに今井さんだったはずだ」
「録音機を再生すればたやすいことだ。名演技だったろう」

 俺たちの行動は全てやつらに筒抜けだったのは、一度でも今井をこちら側へ連れてきた
 せいだ。きっと今井は盗聴器もボイスレコーダーも最初からオンにはしていなかった。
 はめられたんだ…俺たちは。そのせいで村山司令官もあんな目に…。
「村山司令官を殺したのも、お前のせいか今井」
 ラトが今にも引き金を引くような目つきで今井ににじり寄る。
「龍司とか言ったっけな…あいつが狙撃命令を出さなかったのを覚えているかな」
 今井の不気味な声が一層俺の肩を震わせる。