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一羽のココロと理不尽なセカイ

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「憎悪の気持ちが感じられる。悔しい?」
 まるで悪魔のささやきのように羽生の俺をそそのかす声は、不覚にも綺麗だと思って
 しまった。
「何が悔しいだ。俺は…」
 振り向いても、そこにはもう彼女の姿は無かった。
 一体何なんだったんだろう。彼女は俺に何を言いたかったのか、そのことばかりが、
 頭の中を交錯した。
 ふと自分のおかれた状況を考える。ハルの死、龍司のリーダーシップにおける欠如性。
 更には正体不明の少女の出現。
「まるでSF小説みたいな展開だ」
 ぼそりと小さく呟く。屋上にて、俺は深く溜息をつくのだった。
 
 部屋に戻ると恭介がベッドの上で本を読んでいた。
「んあ?おお東馬、帰ったのか。ったく龍司は何で何も教えてくれないんだ?」
「どういうことだ?それ」
「TMのメンバーだけで坂本の救出に向かったんだろ?俺らには成果も何も報告無しだ。
 結局どうなったんだ」
 またしても龍司の不可解な動きが垣間見えた。報告をしていないとはどういうことだ。
 恭介はきょとんとした面持ちで俺を不思議そうに見ている。当然だ、彼はハルが死んだ
 ことさえも知らされていないのだから。
「おいどこ行くんだよ東馬」
 呼び止める恭介の声も響かず、俺は龍司の部屋へと向かう。今回ばかりは俺にだって
 真意を追及する義務があるはずだ。
 龍司の部屋を目の前にして、ふと足が止まった。まるで誰かに操られているかのような
 気味の悪い感覚に、俺はいつしかめまいすらも覚えた。
「どうしたんだ…俺…」
 それは疲れなのか、病なのか、自己確認さえも出来ぬまま、俺は床に倒れた。
 
「兄ちゃん、起きてよ。もう朝だよ!」
 耳に飛び込んできたのは、聞きなれた妹の声。目を開ければ、そこには見知った俺の
 部屋の天井が視線の先に映るのだった。
「あれ…俺確か、龍司の部屋の前に来てそれから…」
「はぁ、まだ寝ぼけてるの?いつまでも寝てないで学校行く準備してっ」
 幻覚か?俺はまだ夢を見ているのか?
 花蓮が部屋を出て家はしんと静寂に包まれる。まるで俺以外誰もいないような、そんな
 気までして、妙な雰囲気が俺の背筋を凍らせる。
 実際に部屋から出てリビングに行っても、花蓮の姿は無く、テーブルの上には置手紙。

 理由もわからず手紙を手に取り読んでみる。
『公園に来て』
 それだけの文に少々戸惑いつつも、俺は着替え指定された公園へと向かった。
 公園とは家を出て5分くらいのところにあるそこそこ大きな公園を指すのだろう。
 俺の家族の間では、公園と言ったらあそこしかない。
 公園に着いても、人ひとりいない殺風景な光景だけが目に映った。
「また…会ったね」
 声のするほうへ目を向けると、そこにはいつかの黒髪の少女、羽生がふふっと鼻で
 笑いながらベンチにちょこんと座っていた。
「何のつもりだ。これはお前の仕業か?」
「私の?どのことを言っているのかは知らないけど、あなたは今混乱している」
「ああわかってるさそんなこと。この現実が、現実じゃないってことだってな」
 羽生は驚いたのか、目を丸くして不思議そうに俺を見た。
「意外、まだ気づいてないと思ってたのに」
 残念そうな表情を浮かべる彼女をよそ目に、俺は周りを見回していた。
 特に変わった様子は無い。ただ一つ、どこからも人の気配がしないということ以外は。
「元の世界に帰してもらおうか」
「いーや、だってそんなことしたら」
 それから一度こちらの目を凝視した後、羽生は妙なことを口走った。
「あなた、ここから消えちゃうもん」
「当然だ。この世界から消えて、元の世界に戻るんだ。俺の存在は消えて当たり前だ」
 強く彼女を突き放すような俺の言動は、思いの他その場の雰囲気を一瞬にして凍らせた。
 羽生はそっぽを向く仕草を見せた後、その長い髪をなびかせながら無言のままその場を
 立ち去ってしまった。俺の彼女を引き止める声も、まるで聞こえなかったかのように。
「畜生、俺は何だってこんなことに…」
 思わず羽生の座っていたベンチに腰掛けた。すると、手元に何やら小さな手帳が置か
 れていた。俺はそれを手に取り開いてみる。
「羽生衣飛笑…やっぱりあいつのだ」
 悪いとは思っていたが、この状況下で俺は少しでも元の世界に帰る術を見つけたく、
 勢いで手帳の中を読んでしまった。
『一つ目の夜、平岡東馬の“夢”に入ることが出来た。私の体は薄く、彼には私を
 はっきりと確認することが出来ない。哀れな人』
 哀れな人て…。
『二つ目の夜、再び平岡東馬の“夢”に入った。彼はまだ私を思い出せない』
 文を読んでいると、妙な既視感が俺を襲った。
「夢に出てきた少女の影…まさか」
 あくまで憶測として、俺は羽生の存在と夢に度々出てきた少女の影を照らし合わせた。
 そう、あの影は羽生だったんだ。
 だとしてもこんなことをする必要との関連性がわからない。また振り出しに戻った。
「平岡君っ」
 顔を上げると、目の前に愛井香が覗き込むようにして立っていた。
「愛井香さん?どうしてここに…?」
 突然の出来事に言葉が見つからなかった。
「ここはあの子…羽生ちゃんの創り上げたパラレルワールド。この世界に入れるただ
 一人の人間が私なの」
「何か彼女について知ってるんですか」
「ええ、前に話したでしょ、罪滅ぼしをする為に、私はマインドで好餌社を相手に
 戦っているって。実は、羽生ちゃんね、私の親友だったの」
 意外過ぎる事実に俺は少々困惑の色を顔に浮かべた。
「ある日学校で2人で遊んでいた時、掃除用具入れから精神世界へ迷い込んでしまったの。
 そこで私たちはどうやってここから出るか考えた。するとそこにやってきた好餌社に、
 羽生ちゃんは捕まって、マインドをおびき寄せる餌だと彼女を牢獄へ入れた。私は
 見つけたマインド本部へ逃げた。最低よね。何度もマインドに縋ったわ。友達を助けて、あのままだと殺されるって。けど、当時の指令官だった男はそんなこと一切耳に入れなかった。そこで考えたの、私が羽生ちゃんと代わってあげればいいんだわ。けど、いざシャロに向かってみたら、彼女は既に殺されていた。意識亡霊体として、私の前に現れたの。そしたら彼女、何て言ったと思う?」
 俺はこの先の展開に、よもや終止符を打つような眼差しで聞き入る。
「ありがとうっていったのよ。それから私は決めたの。例えどんな危険が待っていても
 構わない、彼女の命を奪った奴らに復讐してやるって。これが私が彼女に出来る、唯一の罪滅ぼしってこと」
「彼女が亡霊体として具現化したのには、何か理由が?」
「恐らく彼女の手に、レコードボールがあったから」
 俺は右ポケットに入れてある宝玉を指先で転がしながら小さな疑問にふけっていた。
「レコードボールの前の持ち主は、羽生ちゃんなの。その宝玉は、感情や気持ちを具現化
 することが出来るから、きっとそれのせい」
 レコードボールの保持者?だから彼女は俺に付きまとうような行動を?
 だとしたら夢に出てきた彼女の理由にも説明がつく。
「愛井香さん、とりあえず羽生を探しましょう。もう一度会って話がしたい」