小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

一羽のココロと理不尽なセカイ

INDEX|20ページ/29ページ|

次のページ前のページ
 

 全てを聞き出してもらい、会話が終わり次第盗聴器を切ってもらう。それが合図だ、
 ハルに犯人を狙撃してもらう」
 要は今井が囮になって情報を聞き出し、用が終わればハルに犯人を射殺か。
 俺と龍司は病院の使われていない倉庫部屋にて、ハルに連絡を入れる。
「ハル、状況確認」
『目標、未だ確認出来ず。引き続き監視を続け・・・あ、今一人部屋に入ってきおった』
 ハルの通信機越しに狙いを定める仕草や音が聞こえる。
「ラト、盗聴器オン」
「おう」
 勢い良くラトは盗聴器から集音する音を拾う機械のスイッチをオンにした。
『今井さん、大丈夫ですか?怪我をされたと聞いて・・・』
『ああ、平気です。瀬川さん・・・ですよね、すいません、まだ心操薬の出来が悪くて』
 どうやら今井は心操薬の開発を依頼してきた男、つまり坂本氏をさらった犯人と
 話しているようだ。瀬川、確かそう言った。
 龍司やその他の皆も集中してヘッドホンに耳を傾ける。
『そうですか、まぁベースが出来ていれば良いんですよ。それより一つ聞きたい』
『はい、何でしょう』
『今この会話を聞いている人は、他にいないでしょうね』
 一気にマインド全員に緊張の空気が漂った。
『いいえ、いませんよ』
 まるで犯人は俺達の存在を既に知っているかのように、怪しみながらも会話を続ける。
 すると急にハルから連絡が入った。
『犯人も今井も顔が確認できんぞ。しかも犯人は帽子とマスクをつけておる』
「目を離すな、そいつがきっと犯人だ。指示は俺が出す、まだ撃つな」
 龍司は引き続き盗聴器に耳をやる。
『瀬川さん、坂本さんのことでうかがいたいのですが』
「バカっ!犯人を刺激するような言動はやめろと言ったはずだ!」
 龍司に焦りの色が見え始めた。
『坂本・・・?』
『はい、坂本健一さんは私の古い友人で・・・』
 小さな金属音が通信機越しに聞こえた。
『どうしてあなたがその事を知っている?誰もその話をしていないはずだ』
『いっ・・いえ、前に彼から電話があって、あなたのことを話していたので・・・その銃を
 しまってください・・・』
 今井のおびえる声が震えながら聞こえる。今井の命が危うい。
「龍司、撃つなら今だ。早くしないと今井さんが・・・!」
「まだだ、まだ待て・・・」
 汗が頬をつたう感触が生暖かく滴る。
『龍司!早よう撃たんと殺されるぞ!今なら狙撃できる!』
 ハルからも緊急連絡が入る。
『今井さん、あんたは味方だと思っていたが・・・やはりただの裏切り者か』
『待て・・・まっ・・・・』
『龍司ぃ!』
『じゃあな』
 鈍く重い発砲音が通信機越しに轟いた。
『援護目標・・・・死亡・・』
 ハルの震える声が未だ聞こえる。
『龍司、わしはもう指示なんぞ待たんぞ。今すぐにでも犯人を・・・』
 ハルの声が聞こえなくなり、しばらくした後再び口を開いた。
『・・・ジャック・・・・!』
 息絶えるようなか細い声を最後に、ハルからの通信は跡絶えた。
「ハル?応答しろハル!」
「駄目だ、反応が無い。一体何が起きてるんだ!」
「今すぐ救助に向うんだ!東馬は今井の部屋からボイスレコーダーを回収!行け!」
 俺はすぐに反応できず、しばらく拳を固め、龍司の行動に疑問を持ちながら1803号室
 へと向った。

 今井の部屋に入ると、やはりそこには血しぶきの痕が激しく残っており、出来るなら
 すぐにでも部屋から出て行きたくもなった。
 今井の顔には布が被せられていて、俺は懐に入った盗聴器とボイスレコーダーを回収し、特殊証拠隠滅剤を使い、部屋についてしまった自分の指紋や足跡を消した。
 部屋を出て、病院を出て、臨時本部へと戻ると、重傷を負ったハルの姿があった。
「ハルっ!龍司、どうして病院へ連れて行かないんだ!」
「現実の人間に、俺達の存在を知られたらまずいからだ。それぐらいわかるだろう」
「わからないよ!俺はもうあんたの考え方にはついていけない、どうして仲間を見捨てる
 ような真似するんだ!リーダーはそんなものなのか?」
 俺は思いつめていた事を一気に爆発させた。
「仲間を見捨てるなんて言っていない、俺はただ・・・」
 うっすらと涙を浮かべたようにも見えた龍司の横顔からは、いつもの気迫を感じられなかった。俺は感情が先走り、ハルをタンカに乗せたまま病院へと走った。何度も
 呼び止められた。でもその時の俺には何も聞こえなかった。ひたすら足を動かす。
 死なないで欲しい、それだけが俺の脳裏を渦巻いた。
「東馬・・・・」
 そんな中、ハルは小さな声を絞り出し、何か言いたげに口をもごもごと動かすのだった。
「どうしたハル、何か言いたいのか?」
「・・・・っ」
 ハルは銃弾を首の左から右肩を貫通していて、とても声を出せる状態ではなかった。
 もしかすると丁度声帯を傷つけたのかもしれない。
「大丈夫だハル、今すぐ病院に・・・!」
 そして次の瞬間、彼女の消えていく声が俺に小さく響いたのだった。
「・・・・ジャックが・・・・いた・・・」
 その言葉を最後に、彼女が息をすることはなかった。

























     欠落

                1

 ハルの死をうけてマインドにも不穏な噂が流れ始めた。龍司のリーダーシップについて
 疑問視する人や、坂本氏の行方不明などで、すっかり精神世界の本部は統率力を無く
 してしまっていた。
 ハルが最後に残した言葉、それは意外すぎる結末だった。
 彼女によると今井を殺し、心操薬の制作依頼及び坂本氏の誘拐を企てた男が、元TMの
 リーダーであるジャックだったとは、一気に自軍の士気が低下してしまった。
 そんな中、俺は一人屋上にて自らの涙に濡れる空を眺めていた。
 空気は澄んで、一層冷たい風が肌を刺した。しばらくすると涙は涸れ、ここ精神世界に
 来てからの事を思い出していた。特にハルと初めて出会った時を思い出すたび、涸れた
 はずの涙の粒が、頬をつたう。
 俺は一体何をする為にこの世界に来たのだろうか。不安のような焦りのせいで、気持ちも夕陽と共に沈んでいく。
「あなた、泣いているのね。かわいそう」
 その声は俺のすぐ後ろから聞こえた。
 振り向くとそこには、黒く長い髪に吸い込まれるような淡いブルーの瞳、背は俺より
10cmほど低く、両手で抱きかかえるようにして持つぬいぐるみは、妙に不気味だった。
「君は?」
「羽生、羽生衣飛笑(はにゅうことえ)あなたは私を知らなくても、私はあなたを知って
 いる」
 無表情で淡々とそう言い流す彼女の口元は、心なしか少し笑っているようにも見えた。
 不思議な雰囲気を出しながらも俺に近づこうとする羽生に対し、俺は何とも怪訝な言い回しで。
「俺に何の用だよ」
「助けてあげようと思って」
 助ける?それでハルが返ってくるなら言うことないさ。でもこれは子供の絵空事みたいな簡単な話しじゃないんだ。しかめっ面な俺を、彼女はさぞかし落ち込んだ目で見て
 いただろう。どうやら今の俺は、人と話すのが億劫のようだ。
「あなたは人を失った。だから泣いている」
「ああ失ったさ、それも龍司のせいに決まっている。あの時早く助けていれば」