一羽のココロと理不尽なセカイ
因みにここは先ほど言っていた臨時のマインド本部である。廃墟になったビルを勝手に
使わせてもらっている。臨時なだけあってこじんまりとした本部で、TMのメンバー
及び龍司のみのメンツとなっている。
作戦を練っていると、設置された電話が鳴り響いた。
龍司が出て、周りのメンバーにも聞こえるようにスピーカ音量をナユタが上げる。
「誰だ」
「坂本はまだ生きている」
機械音のような声で話す電話の主。
「今どこだ、坂本氏を解放しろ」
しばらく黙った後、犯人と思しき男から意外な反応が返ってきた。
「遠川研究所、そこにいる」
そう言い残し受話器を切る音と共に男の声は跡絶えた。
「龍司、罠かもしれないよ」
ナユタの笑みが消えた顔は真剣そのものだった。
「いや、遠川研究所にやつはいる。ナユタ、東馬、急ぎ指定場所へ行くんだ」
俺とナユタは龍司の気迫の溢れるような命令を背くことは出来なかった。
そこにやつがいる根拠も無いまま、2人は研究所へ向ったのだった。
5
車を走らせて20分ぐらいのところにある遠川研究所は、思いの他大きく、3階建ての
ビルにしては図体だけでかくしたような建物だった。そして面倒な事に研究所がある
場所は人通りの多い、まさに都会のイメージそのもので、もしここで何かが起これば
甚大な被害が及ぶのは言うまでも無い。
ナユタは腰に小さな拳銃を隠すと、周りを気にしながら研究所の中へと入っていった。
俺も後に続く。ビル内に入ると、ロビーに2人の女性が受付及び監視をしていた。
するとナユタは受付に堂々と接近していく。
「あのすいません、昨日研究所の見学を予約していた小川と言います」
思い切った行動に出たものだ、この人は。
「えと、小川・・・様?ですね、こちらへどうぞ」
案外すんなりとオーケーしてくれたものだ。と思った次の瞬間、一人の女性がリスト表
を読みながら俺とナユタを足止めした。
「小川とは?こちらにはそんな予約入っておりませんが」
「でーすよねぇー」
ナユタはものすごい速さで隠していた拳銃を抜くと、2人の女性に向けて・・・。
・・・・撃ちよった。
「ナユタ何してんの!」
「ん?だぁいじょーぶ、これ、麻・酔・銃・☆」
とても爽やかな笑顔・・・いや、不気味と言ったほうがいいのか?そんな顔で俺に
ウインクをかますナユタ。いやいや、それにしても少し引く。
エレベーターに乗り込み上の階を目指す。
「誰ですか?あなたたちは」
一人の細々とした男が白衣姿で現れた。きっとここの研究者に違いないと、ナユタは
単刀直入に聞いた。
「坂本氏はどこです、教えなさい」
ナユタは男に銃を突きつけると、ものすごい剣幕で脅しをかけた。
「何ですか、知りませんよ坂本なんて、私はただここで研究をしているだけですよ」
おどおどとしながら、男は両手を上げた。
犯人が指定した場所は確かにこのビルだ、ということは彼ももしかすると犯人と何か
繋がりがあるのかもしれない。広々とした研究室に彼だけしかいないというのは、
怪しいにもほどがあった。
「平岡君、悪いけど彼の服を調べて」
「はい」
もし彼が犯人なら、爆発の際、服にすすがついているはずだ。しかしどうみても彼には
そのような痕跡は無かった。服を捨てたか?
「だから何ですか、私はここで心操薬を作っているだけです」
「心操薬とは?」
男はハッとした顔で眼鏡をいじりながらしぶしぶ説明をする。
「心を一時的に麻痺させる薬です。医療用として開発させてもらっているんです。
それを飲めば麻酔と同じ効果が出てきます。何よりこの薬のメリットは、麻酔から受ける後遺症を軽減できることです」
自慢げに男はその心操薬の入ったビーカーを手に取り胸を張る。
「医療用ね、あなた名前は?」
「今井庄司と言います」
今井は眼鏡をかけなおすとビーカーを机に置き、傍にあったイスに腰掛けた。
「本当に何も知らないんですね?坂本氏がいるのはこのビルだと聞きましたので」
「何か訳ありのようですね、何でしたら他の部屋も調べますか?参考になるかどうかは
わかりませんが」
今井の後をついていき、隣の部屋のドアノブに手をかけた時だった。
銃声の嵐が、俺達のいる研究室の中で響き渡った。
「うわああっ」
「今井さん!こちらへ!」
ナユタが交戦しているうちに俺は今井を別室へと運ぶ。
それにしてもものすごい敵の数だ。どこに隠れて・・・。
「平岡君!援護してくれ!敵が多すぎる!」
ナユタがリロードしながら壁に隠れて俺にアイコンタクトを送った。
すかさず俺も手にした拳銃で応戦した。
「お2人とも!こちらに非常階段があります!」
今井の声に耳を傾け、俺とナユタは素早く身を今井の指差すほうの部屋へと投げた。
ドアを閉めようとした時、一発の銃弾が俺の目の前をかすめ今井の足へ直撃した。
「ぐっ」
声を押し殺し、早急に自分の白衣で止血を試みる今井。しかしそれはほとほと虚しく、
出血が酷く止まらなかった。
「ダメです、銃弾を抜き取らない限り・・・ここは一旦今井さんを連れて本部へ帰りましょう」
ナユタの冷静な判断により、その後本部で応急処置が施され、今井は一命をとりとめた。
本部にて、龍司の今井への質問の嵐が続いていた。
「本当に何も知らないんだな」
「はい、あのような集団も見たことありませんし・・・・あ、でも今朝・・・」
「どうした、何かあったのか」
「はい、今朝私が今開発している心操薬の製造依頼者の方が一人で来られて、確認がしたいとの事で研究室の奥の部屋へ連れて行きました。それぐらいですね」
「それは何時頃の話しだ?」
龍司は更に問い詰める。
「確か8時半から9時の間だったような」
今井の言う事が正しければ、その男が犯人だとすると時間はドンピシャ。本部に電話が
かかってきた時間と一致する。そう、犯人は確かに研究所から電話をかけていたのだ。
しかし一つだけ矛盾があった、今井の証言によると、研究室に来たのは一人。そう、
肝心の坂本氏がいないのだ。だがしかしこれで大きな情報を得られることが出来る。
今井から男の特徴などを聞き出し、犯人像をあぶりだした。
「ヒゲ面で髪は長め、ロングコートを着た男か」
それにしても、あの時の銃撃戦は一体何だったのだろう。あれだけの人がいて、今井は
気付かないものなのだろうか?
「東馬、今井を病院へと送ろう」
「え、良いの?彼もうこれで終わり?」
ナユタは不満げだったが、もうこれ以上聞く必要は無いようで、龍司の一声で今井は
病院へと運ばれた。
病院へつくと、作業中に事故が起きたという事で治療をしてもらうことになった。
龍司のわがままで受付にて今井の入院する部屋を指定してもらった。
今井の入る部屋は1803号室となった。
「どうしてまた部屋指定をしたの?」
「実はハルが向い側のビルで待機している。今井の所へ来るだろう犯人を狙撃する」
「狙撃?犯人から坂本氏の居場所を聞く前に殺すつもり?」
「まさか、今井の懐にボイスレコーダーと盗聴器を忍ばせてある。今井には犯人から
作品名:一羽のココロと理不尽なセカイ 作家名:みらい.N