一羽のココロと理不尽なセカイ
ハルの後ろに座り、以前と同じようにハルの腰を掴む。
「行くぞお前ら!」
ジャックの声に合わせて全員のバイクにエンジンがかかり、ものすごいスピードで
走り始めた。
3
好餌社本部前、俺たちは龍司からの指令を待っていた。
「マインド諸君、君たちの勇気に拍手を贈りましょう。しかしその反面無謀だとも言う。我々の勢力は既に身をもって知っているでしょう。そちらの軍勢は500人ほどだと見た。引き返すなら今のうちですよ」
シングがスピーカー越しに牽制した。
「俺達が引くだと?ありえねぇな。シング!お前の懐にあるその宝玉、返してもらうぞ」
龍司の気迫溢れる声が辺りを圧倒した。その直後、500人のマインド突撃隊が玄関へ
と流れ込む。がしかしそううまくもうかず、好餌社の大軍が左右から挟みこむように
して銃撃をしかけてきた。数で負けるこちらの軍は、必死の攻防戦を繰り広げる。
「今だ、行くぞ東馬!」
ジャックの呼びかけにTMのメンバーが本部に殴りこむ。そのすぐ近くでは次々に
マインド部隊がやられていく光景が広がっている。俺は思わず目をつむってしまった。
そしてただひたすら4人の後を追いかけることが精一杯だった。
ナユタの二丁拳銃が俺が間近で聞く最初の発砲音だった。
玄関を通り、ロビーに集まる好餌社軍を、先頭に立ったナユタが注意をそらす。
「東馬こっちじゃ!」
気がつけばハルは階段付近にて得意の長身銃で見事に敵を蹴散らしていた。
ハルに追いつくと、ジャックとラトが俺の援護に回った。そう、ここから先が俺の
仕事だ。シングのところへ行き、RBを奪還しなければいけない。
「東馬わかるな?やつは3階の司令室にいる。銃は使えるな」
「大丈夫、もう前みたいな俺じゃない」
「よし、行ってこい、後ろは任せろ」
ジャックが俺の後ろをカバーし、ラトが俺よりも先に走っていった。
「早く来い東馬!あたしが先導するから」
いつにない真剣な表情のラトに少々驚きながらも、素早く階段を上がり3階へ。
シングがいると思しき司令室に辿り着き、ラトとジャックと俺の3人でドアを
けり破った。
「早いですね。もう来てしまいましたか」
「さあ、RBを返してもらおうか」
ジャックのドスのきいた声が耳を振動させる。
すると一階のロビーのほうから大きな爆発音が轟いた。
「ああ・・・気に入ってたビルだったんですけどね・・・こうなってしまえばもうここから去る
しかないでしょう」
シングは寂しげな目をしながらしみじみと部屋の中を見回した。
「何を言っている、お前はここで終わるんだシング」
ラトも睨みをきかせて銃をシングの頭に向けた。
そして再び巨大な爆発が何度もロビーや2階で起きる音が聞こえた。
「お前、一体何をした!」
「だから言ったでしょう、この場を去るとね。ついでに綺麗な花火でもお見せしてあげ
ましょうかと思いまして。あらかじめプラスチック爆弾をいたる所にセットしておきました。勿論、それは私達だけの秘密です」
シングは不気味な笑みをこぼして右手に隠し持っていたスイッチを踏み潰した。
「お前・・・」
「この計画を知っているのは私を含め2人しかいません。その方に脱出の術を確認して
いただきました」
そういって、シングが指差した先を見た瞬間、とうとう3階にも爆発の影響が及んだ。
「東馬!あたしのところへ早く!」
壁という壁が爆風で剥がれ、身がこげるような炎の熱さにたえられないほどだった。
俺の体は宙に舞い、床に叩きつけられた。もうろうとする意識の中、衝撃の事実に
思わず声が漏れた。
「ジャック・・・・どうし・・・て・・・?」
俺を見下ろしながら見表情のまま、ジャックはシングと共にその場から消えていったの
だった。
・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・。
「・・・・をしておる!ラト・・・く東馬を連れ・・・・ちに来い・・・」
「と・・・ま・・・・・とう・・ま」
意識がはっきりしない。まぶたが重い。体が動かない。熱い。どうしちまったんだ俺。
もう駄目なのだろうか。
「東馬!」
龍司の声に目を覚ました俺は、辺りの惨状に目を疑った。どこも炎に包まれていて、
逃げ場という逃げ場を全て失ったような状況だった。
「動けるか?」
「ああ・・・」
頼りない声だったかもしれないが、俺は精一杯足を立てて歩こうと試みた。しかし
どうも力が入らない。
「俺につかまれ、逃げるぞ」
龍司の肩にしがみつき、ラトが先頭に立ち逃げ道を確保しようとした。
「駄目だっ龍司、全部塞がれてる!」
「こっちだよ皆!」
ナユタの声が聞こえる・・・。でも・・もう無理みたいだ・・・目の前が真っ暗になりかける。
「東馬、頑張れ、もうすぐだからな」
龍司は常に俺に意識を確認するように声をかけてくれた。
しばらくして目を再び開けると、そこはシャロ工業施設だった。
「何とか脱出できたな。東馬も目を覚ましたようだし」
龍司の額からは血が流れていた。
「龍・・・司?お前血」
「あん?ああ、これぐらいどうってことねぇよ。それよりもお前が無事で良かった」
「ふん、まあ一応は任務成功できたし許してやる・・・」
ラトはつんとそっぽを向きながらそう言った。
「任務・・・成功?成功したのか?」
「何言ってるの。君のポケットに入ってたのは正真正銘のRBだよ。良かったね、返して
もらえて」
ナユタは笑顔で俺のポケットに入っていたと言うRBを手で転がす。
「どういうことだ?俺はRBなんて取ってない」
『は?』
声を揃えて4人は唖然とする。
「まさか・・・ジャックが?そうだジャックが!あいつシングのところに!」
思い出した俺は取り乱しながらも先ほど起きた出来事を龍司に説明した。
・・・・・・。
「そうか、ジャックのやつ・・・」
神妙な雰囲気になり、辺りは沈黙した。
「ジャックが好餌社。ただそれだけだ。もうその事は忘れろ。作戦は終わったんだ、
本部に帰還するぞ」
龍司の声にはいつもの覇気は無く、小さなその声は少し震えていた。
戦死者302名・負傷者191名・行方不明者7名
学校に戻ると、医務室は負傷者で埋まっていた。折りたたみ式のベッドが廊下まで溢れ
てきていた。
龍司は何も言わず自分の部屋へと帰っていった。
「東馬、帰ったか」
脱力した恭介の姿が一階のベンチにあった。彼が生きていたことに安堵しつつ、俺は
今日起きたことを説明した。すると恭介は信じられないというような表情をした後、
ふたたびベンチにうなだれた。
「まぁでも、RBが戻ってきて良かったな東馬。それさえあれば百人力だ」
「でもまだ使った事ないし、不安は残るよ」
その後2,3喋ってから俺はその場を後にした。
RBの使い方もわからないままコレを持つのには資格が足りないんじゃないだろうか。
右手で宝玉を握り締めながら俺は保健室に向っていた。
「失礼します・・・」
ゆっくりと保健室のドアを開くと、机と向き合いながらデスクワークをする愛井香が
いた。
「あら東馬君、何か悩み事?」
作品名:一羽のココロと理不尽なセカイ 作家名:みらい.N