一羽のココロと理不尽なセカイ
「そこまで精神ナントカとか言う話、信じてるんだね、何かごめんね信じてあげなくて」
「同情するならそこをどけ」
全面戦争
1
とんでも悪夢を見た俺は、まだ少し汗ばんだ服を制服に着替えリビングへ下りる。
朝食を食べ終え急いで学校に向う。
校門を通り、下駄箱に靴を入れ、上履きを履くと教室に入る。
普段と何ら変わらない一日、それも俺からすれば普段とちょっと違う一日。
「おはよ平岡君っ」
御坂はいつもより少し元気みたいで、語尾を短く跳ね上げた。
「おうおはよ」
こうして今日1日の始まりをチャイムが知らせたのである。
昼休み、缶ジュースを片手に中庭を放浪していると、どこからか妙な奇声のような
雄叫びのような・・・とにかく妙な声が校舎裏から聞こえてきたのだ。
内心おそるおそる覗き込むと、そこにはこちらに背中を向け、何やら神秘的(バカ)な
ポーズをとっている男子の姿。両手を空にかかげ、左足を前にピンと突き出していた。
空手か何かの練習だと現実が薄れる自分に言い聞かせながらその男に小さく声をかけた。
「あの・・・すいません、何をしてるんですか?」
俺の声に気がついた男は、その神秘のポーズをとったままこちらに振り向いた。
すると・・・・。
「やぁ、君も一緒にどうだい?」
右目に眼帯をつけた物凄い美青年がそこにいた。爽やかなそのボイスだけを聴くと、決してこのような理解し難いアレなポーズをしているなどと残念な思い込みをするはずは無いだろう。だが、これは事実なのだ。逆に小さな恐怖心すら沸いてくる。怖い。
「えと・・・そのポーズは?」
「これは世界中の人々と交信する為の神聖な儀式さ」
すごく綺麗な声だ。ただ儀式とか言ってる時点でどうかと思う。
爽やかなスマイルを俺に向ける。整った顔立ちにとても似合っていた。
「僕はね、世界と世界を繋げる為にこうして儀式を週に2〜3回やっているんだ」
そう言うと彼はポーズをやめ、素の眼差しで俺の目を直視する。
「2〜3回かよ、てきとーだなもっとやれ」
俺は何を言っているんだ。今はそれどころじゃないだろう、ナユタを捜さなくては。
・・・・・ん?世界と世界?今確かにそう言った。
駄目もとで聞いてみることにした。
「あの、実はナユタって人を捜しているんですが、知りませんか?」
「あ、それ僕だよ」
えーっ。
「僕がナユタだよ、君は?」
「平岡東馬です、その、チームマインドの・・・」
「あーっ君があの・・・・ほうほう」
するとナユタは俺の隅々をまじまじと見回した。
「何か・・・背低いね!」
「・・・・・・」
チッと舌打ちをしてしまったが、とりあえず今は彼を龍司の所に連れて行かないと。
「あ、因みにこの世界での僕の名前は加藤直樹だよ。くれぐれもナユタって呼ばないでね。
現実の人にばれたらあまり宜しくないようだし」
「じゃあ何で俺が名前を聞いて答えたんですか?」
「だってナユタなんてこの世界の人間が知ってるわけないじゃない」
くそっ、爽やかな顔して。
その後俺はナユタを連れて掃除用具入れの前に立つ。
合言葉を呟き、俺達2人の体は浮遊空間の中へと飛ばされたのだった。
・・・・・・。
まただ、真っ暗な闇が周りの空間を包む。
俺の予想が当たれば、今からここに白い影が現れるはずだ。
するとしばらくして予想通り目の前に一人の影が現れた。
「いい加減教えろ、お前は一体誰だ」
「・・・・良いよ、教えてあげる。私は君だよ」
何を言っているのかがよく分からない。
「君の心が具現化して生まれたのが私」
「どうしてすぐ教えてくれなかったんだ」
「物事には知るタイミングというのがあるから、あ、そろそろ到着するみたい、じゃあ
またね、もう一人の私」
「待っ・・・・」
すうっと意識が戻り、精神世界へ辿り着く。
「はい、君これでイエローカードね」
ナユタが藪から棒にそんなことを言いつけてきた。
「何がイエローカードって?」
すると教室に龍司が入ってきた。
「よう、ナユタを見つけてこれたみたいだな。そいつはゲートキーパーだ。精神と現実を
繋ぐ門の管理を行っている」
「ゲートキーパー?ってか、俺注意されたの?」
「平岡君、君御坂君を連れてこなかったね。これじゃあまた帳尻を合わせないと」
なにやら本当に嫌そうな顔で俺を見るナユタ。そういえば前にも御坂が言ってたな。
現実世界に帰るときは精神世界に一緒に行った私と帰らないと時間軸に歪みが出来
てしまう。まさか。
「これじゃ御坂が2人いることになっちまうな、まぁ後は任せたぞナユタ」
「はい、全力で仕事します」
それは言わなくてもいいんじゃないか?それより、いいのだろうか。存在が重複して
しまうと身体的にも精神的にも御坂にとってあまりよろしくないんじゃないのだろうか。
特に情報の共有がおかしくなる。同じ時間に別の記憶が存在すると気が狂うと思う。
「僕は一人の人間の記憶がダブらないように帳尻を合わせることが出来る能力を持ってる。
だから心配はいらないよ」
案外あっさりしてるんだな、そういうものなのか。
しかし何がともあれチームマインドの面々が揃ったということになった。
龍司はすぐにTM(チームマインド)を教室に招集した。
「これより、宝玉奪還作戦を開始する」
5人の間にどよめきが走ったが、龍司はそのまま続けた。
「宝玉、すなわちレコードボールを、本来の使い手である東馬の手に取り戻すことが
今回の任務となる。RB(レコードボール)は今現在シングの手中にあると考えた。
そう、つまりこれは、本部への正面突破を意味する」
教室に静寂が訪れた。皆がこの任務の重大さにプレッシャーを感じているに違いない。
「正面突破か、俺にうってつけだな。ほらどうした、もっと気合入れろ」
ジャックが一歩前に出て士気をあげるかのように声を大きくし、俺達の目をじっと
見つめた。そうTMのリーダーであるジャックが一番重圧がかかるはずなのにも
関わらず、こうした行動をとるのはきっと皆を気遣った故の事なのだろう。
「皆、俺頑張るよ。初めての任務で緊張するけど、まぁ何とかなるだろうし」
この俺の台詞も、まるで根拠は無かった。けど今はこうでありたいんだ。だから
きっと強がったんだろう。
皆の表情も緩やかになった時、龍司は校内放送用のマイクに手をかけ1―Aの隊員達に
集合の命を下した。そうこれから始まる戦いに備えて。
2
その後龍司から詳しい作戦内容を聞かされた。それは大まかに言うとこうだ。
まずは500人ほどの突撃隊が好餌社本部に攻撃を行う。そして敵本部正面玄関が
戦場になる。が、そのままだと敵の圧倒的な勢力によって制圧されてしまう。
そこで、俺たちTMがその交戦真っ只中を通り、シングからRBを奪還するという
とても危険かつ強引な任務だ。
「良いか、ミスは出来ない。作戦開始まであと5時間ある、準備を怠るなよ。解散」
部屋に戻ると、恭介の姿があった。
「よう、恭介は準備したか?」
作品名:一羽のココロと理不尽なセカイ 作家名:みらい.N