一羽のココロと理不尽なセカイ
俺は御坂の両肩を掴み、目を真っ直ぐに見ながら言い聞かせた。
すると何故か御坂の顔が少し火照ったように赤くなり、視線を逸らされた。
「あっ・・ありがとう。優しいんだね、平岡君は」
彼女はきっと今までにも大変な苦労があったに違いない。そんなところが少し、自分の
過去と重なったのだろう。
「あ、いや、その、とんでもない」
俺が慌てて手を離すと、御坂は振り返り際に飾らない笑顔をくれた。
「何か、すごく軽くなった感じだよ。ありがとう平岡君っ」
2度目のありがとうを聞いた後、彼女はそのまま歩道橋の先へと消えて行った。
たまにはお茶でも飲みながら他愛ない会話をしましょう
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その後家に帰ると俺はすぐに智也にメールを入れた。
『今日は途中抜けちゃって悪いっ!また誘ってな』
すぐに返事は届き、
『おう、何かワケありそうだったしな、今回は大目に見てやるよ(笑)』
と、茶化すような内容だったので、とりあえず一安心した。
リビングでは花蓮がゲームをやっている。たまには外にでも出て健康的になったほうが
いいんじゃないか?そういった思想が頭に浮かんですぐ、俺は花蓮に声をかけた。
「なぁ花蓮、たまには外で遊ばないか?」
「なぁにいきなり、デートですかい」
「ちげーよ、ゲームばっかりしてるお前を、兄である俺が見かねて外行かないかと」
「まぁ日曜なのにずっと家の中っていうのも勿体無いし、たまには良いかな」
渋々ながらも花蓮は外出の用意をし始めた。こうやって兄妹でどこかへ行くのも
久しぶりだ。母にすぐ帰ると告げてまず公園へと向った。日曜日のせいか、行く場所
行く場所には人が多く、公園に着いても子連れの親子がほとんどで埋まっていた。
まぁこの歳で遊具で遊ぶ気は毛頭無かったのだが、何だか負けた気がして一人で
悔しがったりして。地団駄踏みながらワガママを言っている子供がブランコ前に親を
困らせている。坊や、使わないならそこをどいてくれ、後ろの子が指をくわえて
遊びたそうだぞ。
「兄ちゃん、そういえば最近何か変わったことあった?なぁんか調子違うような」
「だから言っただろ、俺は2つの世界をだな・・・」
「あーはいはい、その話はわかったから、もう笑えないよ」
別に笑わそうと思って言ったわけじゃないんだがな。何か虚しい。
その後も花蓮と散歩を続けながら途中ファストフード店で軽く食事をして、昼の空腹を満たす。
「この街に来てもう10ヶ月かぁ早いね」
花蓮がソフトドリンクを片手に目を細めながらそんな台詞を呟いた。
そう、俺が中学の卒業間近になって母が急に『引越しする』と言い出し、高校入学に
合わせて引っ越して来たのがこの街だ。花蓮は中学2年の最後にこちらの中学に編入
したので、きっと友人関係も苦労したことだろう。実際当時花蓮が家に帰る度部屋に
閉じこもってしまう時期もあった。そう思うと今は元気はつらつとしているので、
兄としても少し安心した。
「ねぇ兄ちゃん、そろそろ行こうか」
「んっ?ああ、そうだな」
気がつくと結構時間が過ぎていたようだ。
店から出て目の前のゲーム店を目にした花蓮は、すたすたと当然のように向って行った。
まぁ、こう見ると未だに不安は残るけどな。
ゲームを散々見回してから何も買わずに店を出た。店員にしてみれば迷惑な客だろう。
腕時計に目をやると時刻は既に5時を回っていた。
「長居しすぎたな。もう帰るか」
「あーちょっと待って」
花蓮は俺の腕を引っ張り、ゲームセンターへと向った。
今日2度目のな・・・・・。
こっちは色々と金銭的な問題もあってか、プレイするゲームは最小限に抑えながら
することになった。当然だ。俺だってほいほいと金を出せるほど財布のチャックは
緩くないぞ。
花蓮に格ゲーに誘われて、兄妹で対戦することとなった。当然ほとんどゲームを
したことのない俺は敗残兵よろしくも完敗。何発かパンチやキックを入れることは
できたのだが、どうも花蓮のやつはこのゲームのハメ技を攻略しているらしく、
画面いっぱいに『YOU LOSE』と青い文字が広がる直前には、毎回何かセコイ
技を使ってくるのだ。経験者の知恵とでも言うべきか、こういう努力をもっと他の
事に活用してほしいと切に思った。
あれやこれやのアトラクション続きで今日の俺は疲れに疲れる一日だったな。
帰りの夕暮れ道、昔俺が中学1年で、花蓮が小6の頃よくこうやって夕方一緒に
帰ってたな。そんなことを思い出しながら、落ちていく夕陽を見つめ家に着いた。
夕飯を食べ終え、風呂からもあがり、そろそろ睡魔が襲ってくる夜11時頃。
俺は部屋で今日花蓮と出かけた時に買った小説を開き、しばしの読書に専念した。
・・・・が、やはり睡魔には勝てないようだ。本を閉じ、そのままベッドの上で爆睡した。
・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・。
「ギィィィ」
ドアの開くぎこちない木のきしむ音に起こされた。向こうには真っ暗な廊下があるだけ、
ちゃんと閉めてなかったか。ドアを閉め、時計に目をやると針は3時を指していた。
一度起きてしまうと中々寝付けないタイプの俺は、しばらく何も考えずにベッドに
座りボーっとしてみる。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
何が起こるわけでもなく、もう一度枕の上に頭を置き布団を被ったその瞬間。
いきなりの出来事に俺の脳内シナプスがとうとうショートしたのだった。
『こんばんはーー!』
そう、確かにここは俺の家で、そして俺の部屋だ。なのにどうしてだろう、俺の目に
映っているのは、もう一つの世界にいるはずのチームマインドのメンバー約4名と
龍司の姿がそこにあったのだ。
「なっ何で皆ここに!?」
「東馬!任務を遂行するぞ!」
「レコードボールは私が手に入れた!返して欲しくば・・・・・」
これは龍司の台詞・・・ん?何か変だぞ。
「東馬はワシがバイクを魔法なんかじゃない!」
そしてこれはハルの台詞だ。
「おいおい、皆、どうしたんだ?っていうかどうやってこの家に入った!?」
「それじゃあな東馬、ナユタのこと頼んだぞ」
行くなよ!それだけかよ!わかっとるわ!その前に靴を脱げ靴を!
「東馬がそんなやつだったんて・・・もうお前は用済みだ・・・・!」
おいおい待て何処行く?用済みって何だ?待てって!おい!
みんなーーー!
・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・。
「ぁぁぁああああ!」
「兄ちゃん!起きてよ兄ちゃん!」
ハッと目を覚ますと、朝日がこぼれる普通の月曜日の朝だった。そして花蓮が肩を揺さぶっている。
「あれ・・・・皆は・・?」
「兄ちゃんすっごいうなされてたよ?起きる直前なんて、りゅうじー!とか、行くなー!
とか、凄い白熱してたね」
夢・・・だったのか。確かにそうかもしれない、皆の言動がおかしかった。あんな滅茶苦茶
な夢、もう勘弁してもらいたい・・・。
「兄ちゃん・・・」
花蓮が暗い顔をしながら俺を見つめる。
作品名:一羽のココロと理不尽なセカイ 作家名:みらい.N