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一羽のココロと理不尽なセカイ

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 すると誰かがドアをノックする音が聞こえた。
「ジャック?」
 そう、ジャックがドアの前に立っていたのだ。それも神妙な面持ちで。
「東馬、ちょっと来てくれ」
 渋い声で俺を名指しする。
 言われるがままに俺はジャックの後についていき、いつの間にか校舎の下の方(螺旋
 階段でグラウンドから下の丘へと繋がっている)に辿り着いたところでジャックの歩み
 は止まった。
「ほらよ」
 ジャックが俺に渡したのは彼の自前の拳銃だった。俺が持っているのよりも少々軽い
 ような気もする。
「あの・・・これは?」
「今から俺は全力でお前を殺しにかかる。だから必死にもがいてみろ」
 耳を疑うような台詞を言うと、ジャックはものすごいスピードで俺の懐に入り込んだ。
 とっさにかわしたが、どうやら彼は手にナイフを持っているようで、それで俺を殺すつもりだったようだ。
「なっ!いきなり何するんですか!」
「口を動かしてる暇があるんならまず体を動かせ」
 ジャックは本気だった。キラリと夜の外灯に光るナイフを必死にかわすことだけで
 精一杯だった。
「どうした?その銃は飾りか?」
 挑発するようにジャックは俺が持つ拳銃に目をつける。
「うっ・・撃ちたくないです!あなたは俺たちのリーダーで、仲間だ」
「何ぬるいこと言ってる、俺は今お前を殺そうとしているんだ。撃たなきゃ死ぬぞ」
「ひっ」
 
 思わず身が震えてしまった。一瞬自分の体が硬直したようにも感じた。
 ジャックが俺の目の前まで接近する。足がもつれる。重力に負け、そのまま背中から
 転倒した。
「うわぁぁぁ!」
「バンッ!」
 無心で俺は引き金を引いた。その乾いた音は夜の静寂を切り裂くように遠くの校舎まで
 響いたことだろう。目を開けなかった。そこに映る光景が怖かったから。
 恐る恐る前に目をやると、地べたにあぐらをかくジャックの姿があった。
「あれ?俺確かに撃ったはず・・・」
「外したよ、大はずれ。お前は銃を撃つ才能は無いのかもな」
 手にしていた拳銃を確かめると、リアルに仕上げられたモデルガンだった。
 そのまま俺はへたり込むように唖然と彼の後姿を見つめる。
 さっきまで俺を本気で殺そうとしていた人が、今こうして普通に会話をしている。
 なんて違和感が耐えない空間なんだろう。そう思っていた時だった。ジャックは立ち
上がり、その長いコートをひらつかせながらその場を立ち去ろうとした。
「東馬、とりあえず自分の身は自分で守れるようにしておけ、何の為に腰に銃ぶらせげて
 ると思ってる?ここは戦場だ。いつ何が起こるかわからん」
 そう言って、俺の目の前に持っていたナイフをふっと投げ捨てた。
「あれ・・・これって・・」
「ちゃんと練習しとけ」
 拾った彼のナイフはとても柔らかく、まだほんのり暖かい握り手の部分には小さな
 優しさを感じた。
 
 
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 その日の夜はこの世界で過ごした。最初はジャックの件で中々寝付けなかったが、
 目をつむっているうちに熟睡、気付けばもう朝だった。
 色々と考えることはある気がするが、今はとりあえず飯だ。腹が減っては何とやら、
 俺は恭介を連れて食堂へと向った。
 途中恭介は昨晩のジャックの件について聞いてきたが、それっぽく受け流した。
 食堂に着くと、既に朝食中の隊員たちが大勢集まっていた。
「いやぁ、やっぱ人が多いと面倒だな」
 本当に嫌そうな顔で恭介はビュッフェの列に並ぶ。
 先に選び終わった俺がテーブルを確保すると、眠い目を擦りながら御坂がこちらへと
 歩いてきた。
「ふあぁ・・・おはよ、平岡君。昨日は眠れた?」
「う〜んそれなりに・・・」
 実はジャックのことを考えすぎて眠れませんでしたなんて言えない。色んな意味で俺の
 中の何かが終わる気がする。
 そこに恭介が戻ってきた。
「お、御坂か、一緒に食うか?」
「うん、そうするわ」
 ざっと広げた3人分の朝食がテーブルを鮮やかに彩った。
 3人は他愛の無い雑談などで談笑し、食べ終わってからも少しの間満腹感を紛らわす為
 余談をし続けた。こうしていると戦争だとか、憎しみだとか、そういった不安が一掃
 されるようで、自分がこうして話しているのは一つの現実逃避なのだろうかと自問自答
 をしてしまう。そしてきっとそれは当たっていて、もう戦いなんかやめて皆で楽しく
 現実世界ででも一緒に、普通に友達みたいに喋って勉強して、それでいいんじゃないか?
 駄目なんだろうな、俺たちがこの世界からいなくなっちまったら、誰が好餌社を止める
 んだ。こんなこと考えるだけ無駄だな。
「どうしたの平岡君、ボーっとしちゃって」
 どうやらボーっとしていたらしい。駄目だな、すぐ考え込んじまう。
「こいつ昨日の夜ジャックに連られてどっか行ってから変なんだよな、何かあっただろ」
 恭介も心配そうな目で俺を見てくれるな。何か自分が悪いことしてるみたいじゃないか。
 とは言ったものの、これじゃあ2人に不安を募らせてしまうだけだ。ということで、
 俺は昨晩の事実を白状した―――。
「そうだったんだ・・・」
「なんつーか、大変だったな」
「ああ、でもジャックの言っていた事は当たってる。俺は誰かに守られてばかりじゃ
 駄目なんだ。自分の身は自分で守ることが出来るようにならないと、皆の足は引っ張れ
 ない」
「そうだな、その気持ちは大事だ。でも無理はするなよ?必要な時は俺たちを頼っても
 いいんだからな」
 恭介は真剣な眼差しでそう語った後、最後のベーコンを口にしたのだった。
 
 食堂を出ようと食器を返却口に返したところだった。龍司が俺の肩を叩いた。
「おはよう東馬、朝からいきなりで悪いんだが、今から俺の部屋に来てくれないか?」
「えっ、あ、ああ」
 俺はそのまま2人と別れ、龍司の部屋へ招かれた。

「すまん、散らかってるがそこのソファにでも座ってくれ」
 言われるがままに俺は高級そうなソファに腰掛けた。
「うわっ、これ絶対高い」
 思いの他座り心地の良いソファにたじたじの俺に、龍司はとある話題を振ってきた。
「お前はとうに忘れていると思うが、レコードボール。好餌社の手中に握られたままだ。
 このままでは戦情に響くだろう」
 龍司はペンを片手に何やら手帳に記入しながらすらすらと会話を続ける。
「そこでだ、宝玉奪還作戦を決行しようと思う」
「どうしてまたそれを俺に?」
「現在チームマインドの一人が欠けていてな、そいつ今頃現実世界でのんびりやっている
 ことだろう。探してきてほしいんだ」
「さっ探すって、捜索範囲広すぎだ。もう少し論理的な解決策はないのか?」
「安心しろ、そいつはお前の通っている高校に在学中だ。こちらの世界ではそいつは   ナユタと呼ばれてるが、現実ではきっと名前を変えている。しっかり探して、こっちに
 連れてくるんだ、いいな?」
 半ば強引に命令された気分だ。自分では行けないのかと突っ込もうか迷ったが、それを
 言うとまた面倒な展開になりそうだったのでやめておく。とりあえずそのナユタとか
 いうやつを探そうかと思う。1―Aの教室へ向い、掃除用具入れにずかずかと入った