一羽のココロと理不尽なセカイ
しばらくプレイを続けると、確かにバグの連鎖だった。主人公の仲間が勝手に転落してゲームオーバーやら、村人との会話が成立しないやら、挙げ句の果てにはザコ敵の無限
増殖で主人公がむごい最期をむかえた。
「何だこのゲーム、ゲームになってねぇぞ」
思わず口走る。その横では妹がニヤつきを抑えきれずに顔面崩壊を余儀なくされた。
3
朝日がカーテンの隙間からこぼれ、からかいか優しさなのか、それは丁度眠る俺の目
に被さった。起きると目覚ましのセットされていない時計が指す時刻は9時、そう今日は土曜日だ。キッチンに向かい食パンを焼き始める。母は掃除機をかけ、花蓮は机に 向って勉強・・・何勉強だと?休みの日は朝からゲームのはずの花蓮が
右手にはシャープペン、睨めっこの先には教科書とノート。
「何か悪いことが起きる前兆か?」
「なっ失礼な!明後日試験だから仕方なくやってるの!」
「仕方なくやるな集中しろ」
俺は気の抜けたような声のトーンで花蓮を叱咤した。
・・・・まぁ何事も形からとやらだし、理由はどうであれやっていることは素直に褒める
べきだと後々にして思った。
朝食を食べ終え自分の部屋に戻る。
「ピロリン」
タイミング良く携帯の着信音が鳴り、手にとって相手を確認する。
「よう御坂か、どうした?」
『こんな朝早くにごめん、今・・・出来ればすぐに学校に来てもらえないかな?』
「良いけど、何かあったのか?」
『うん、ちょっと色々あってね、口では説明し辛いから直接見に来て』
通話は切られ、慌てながら制服に着替えて家を出る。
学校に向う途中に色んなシチュエーションを考えた。向こうの世界(精神世界)への
アクセスが跡絶えたとか、二つの世界の時間軸に歪みが出来たとか、愛の告白とか・・・。
最後のは無いにせよ、妙にそういった不安が頭の中をグルグルとまわり続けた。
学校に着くと御坂は下駄箱の前で待っていた。
「ごめんね急に呼び出して」
「良いよ、それより一体何が?」
俺は下駄箱から上履きを取り出しつつ彼女と話しを続ける。
「実は、誰がやったのかわからないんだけど、本部に爆破予告が送りつけられてきたの」
「爆破予告?」
「これがその手紙」
御坂が取り出したのは、青い浜辺にかわいいイルカのキャラクターが隅にプリント
された便箋に、ピンクの文字で犯行予告が書かれていた。
『今すぐチームマインドを解散させろ!しないと本部を爆破するぞ!絶対だぞ!』
何と言うか、とても本気で言っている気がしない。内容が幼稚というか、バカと
言うか・・・。
「平岡君、これどう思う?」
「どう思うって言われても・・・見たままなんじゃないか?」
まぬけってことが。
「平岡君!すぐに本部に戻るわよ!」
俺は腕を引っ張られ合言葉を呟き、掃除用具入れの中へと吸い込まれた。
掃除用具入れから勢い良く押し出されると、目の前に御坂の顔があった。
ぶつかるといけないので体ごと思いっきり右に反り返ってみた。
「ふっぐ・・・!」
背中から変な音が聞こえたが、聞かなかったことにしておこう。上手く避けられた。
精神世界はいつもと同じくどんよりとした空気が漂っていた。
御坂はそんな俺の気も知らずにそそくさと本部に向った。本部とは現実世界で言う
事務局に位置し、すぐに痛む背中を押さえながら俺も彼女の後を追った。
「龍司!」
「ん〜?」
夕飯の最中だったのか、龍司は箸をくわえながら気の抜けるような返事をした。
「これ見て、さっき届いたんだけど・・・」
御坂は先ほど俺に見せた予告状を龍司の目の前で広げる。
「んあ?爆破予告?」
「そう、この学校のどこかに爆弾が隠されてるに違いないわ。早く見つけないと」
「はぁ、またか」
龍司はゆっくりとイスから立ち上がると、そのまま隊員一人一人の情報が書かれた
ファイルを手にすると、おもむろにラ行を開く。
「多分コイツだろうこれ書いたの」
龍司が指指す先には、ラトと名前が書かれた本人写真付きのプロフィール表があった。
写真を通してわかるのは、ラトとは女性で瞳は青、黒髪のショートカットであること
ぐらいだった。身長欄には148cmと低めの体系らしい。
「コイツって・・・手紙を書いた張本人ってこの子なのか?」
俺はやはりと言わんばかりの龍司の表情を見て核心した。
龍司は俺と御坂を連れて女子寮へ向った。女子寮って、俺も入って良いものなのか?
「おいラト、ちょっと出て来い」
部屋の前まで来ると同時にドアを強くノックする。
「あんだよ〜まだ作戦命令出てな・・・・・ゲッ」
出てきたのはプロフィール表に載っていた写真と同様の容姿の子がそこにいた。龍司の顔を見たとたんに青ざめるラト。
「お前だろ、この脅迫状みたいなの送ったの」
「なっ何のことやらだぜ」
龍司はとぼけるラトの頭をゴツンと一発殴り、そのまま部屋から引っ張り出した。
「ったく、脅迫状にかわいいイルカちゃん付きの便箋を選ぶとはね、良いセンスだ」
「別に好きで選んだわけじゃないぞ!それしかなかったんだ!」
またもや一発ゴツン。っていうか自白してんじゃねぇか・・・。
「まぁ一応聞いてやる、何でこんな子供だましみたいなことをした?」
ラトは半分涙目になりながらも理由を口にした。
「少しぐらい刺激を加えてもいいかなぁって思って」
実は俺はもう少し深い理由を期待していた。まぁそれも遠い昔の話しさ。
「痛ってぇ!」
龍司は容赦なく最後にもう一発だけゴツンと叩くと、深く嘆息をした。
ラトはドアにもたれかかり殴られた部分を優しくさする。
「鬼かっ!お前は鬼か龍司!」
ラトの懸命な訴えにも耳を貸さず、龍司は子供を叱る親のような目つきで。
「ちゃんと謝りなさい、チームマインドの一員として、人として」
「えー?なーんでだよー」
龍司は右手をグーにして叩くぞと言わんばかりに振りかざすアクションをとった。
するとラトは素直に謝り始めた。
「すいませんでした。もうしません。許してください」
淡々と棒読みだったがとりあえず謝ったので龍司もホッと一息をついた。
「龍司、叩きすぎじゃないか?この子もまだ小さいんだから・・・」
「小さないわボケ!」
俺を罵倒した後、ラトは勢い良く部屋に入りドアを強く閉めた。
「東馬、ラトはああ見えてチームマインドの1人だ。お調子者だが、まぁ仲良くやって
くれよ」
人生初めての対話がああいう台詞で終わったせいか、仲良くやっていける雰囲気では
無い気がして仕方なかった。
「ごめんね平岡君、とんだ茶番劇だったね」
御坂もさらっとグサリくる台詞を吐いたのだった。
自分の部屋に戻ってみると、恭介の姿がそこにあった。彼は部屋のベッドの上で携帯
ゲームを熱心にプレイしていた。
「おう東馬、さっきはありがとうな助けてくれて、俺言い忘れてたわ」
「俺は向こう(現実世界)で1日過ごしたけどな」
「まぁそう言うなって、俺にとっちゃあさっきハルとここに帰ってきたばっかりなんだし」
二つの世界の時間軸に困惑しつつ、俺はベッドの上に倒れこむ。
作品名:一羽のココロと理不尽なセカイ 作家名:みらい.N