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ユメノウツツ

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「おうバイクメン。」
「バイクメンはやめろと何回言えば」
「我夢!ちょっと待った!」女生徒の声に振り向いた我夢の目に、弁当箱を両手で捧げ持つるみなの姿が映った。るみなはそのままずいずいと我夢に迫ってきて、弁当を我夢に押しつけた。成り行き上弁当を受け取った我夢。
「中身はロールキャベツだ!あたしはあんたのために作ってきたんじゃないんだからね!余っただけなんだから!残すなよゴルァ!んじゃ!」
 ロールキャベツは我夢の好物で、幼馴染のるみなは知っていて当然ではあった。
「…何だあいつ?」
「俺の分は無いの?」
 ずかずかと大股でその場を去るるみなの背中を眺めるしかない我夢であった。


強硬な姿勢を崩さない東アジア連邦に対して日本政府は苦肉の案として、宮内庁の解体と国民の募金によって皇室を存続させる案を東アジア連邦に提示した。歩み寄りの姿勢を示した日本政府に対して東アジア連邦は受け入れられないと即答。日本軍国主義の象徴である日王を連邦法廷で裁くのが連邦人民の意志であるとした。両国関係は一層の悪化を辿っていた。その先には何が待ち構えているのだろうか?


 吉祥学園放課後の美術室。美術部の面々が雑談しながらそれぞれの作品に向かっていた。
「俺、デジタルコンバートしたら他の惑星とか行ってみようと思ってる。」
 そう切り出したのは一足先にデジタルコンバートする予定の我夢だ。
「そうか、そういうこともできるか。」
「山口君、惑星の絵上手いもんね。」森村みらんがほほ笑みながら言った。
「上手いかどうかはいいとして。いろいろ見てみたい。」みらんに褒められてまんざらでもない我夢である。
「いつデジタルコンバートするの?」
「明後日。もう家も整理した。デジタル吉祥学園への転校手続きも済んだ。森村さんの彫刻は猫?」
「そう。猫、好きなの。」
「将来はどうするの?」
「できればムサビの彫刻科に行きたい。」
「それは大変だね。」
「だったらこんなところで木削ってないで予備校行って石膏像の木炭デッサンでもしたほうがいいんじゃないの?」
「あははーそうだよねーでも三年になったら予備校行くからさ、いいんだあたし。今はこの木を削りたいの。」
「あんた真面目にやる気あんのー?」
「んー、現役は無理じゃん?」
「あははわかんないよー、ビギナーズラックってあるかもしんないしー。」
「美大受験にビギナーズラックがあるかーゴルァ!」
「あははは。」なぜかみらんは笑っていた。


 翌日、我夢は登校したのち皆と一緒に授業を受け、放課後は美術室に顔を出し、自分の絵のデータを整理してから、「じゃ、お先!」とあっさりと別れを告げた。みらんは少し寂しそうな表情をしていた。るみなは、「いっぺん死んでこい。」と毒を吐いた。
さらにその翌日、我夢は父親の孝明と保健所に向かった。シナプススキャン装置は現在は保健所を中心に設置されていたが増産が開始され、間もなく役所や公民館などにも設置されることになっていた。
アナログ世界での財産はあらかた国に売却してしまい、といってもマンションが数千万で売れるはずもなくローンの残りからするとかなりの損をしなければならなかったが、孝明は後悔していなかった。国に売れただけまだましな方で、近いうちにその予算も無くなるはずだ。
保健所では以前の全身MRIのような形のシナプススキャン装置に、人が列を作っていた。孝明も我夢も、デジタル世界に持っていけるデジタルデータの入ったメモリデバイスを持っていた。これが新たな財産となるはずだった。
シナプススキャン自体は簡単で、全身麻酔ののち顔面と骨格のスキャンと合わせても3分ほどで済んだ。1人につき数テラバイトのデータがここからデジタル東京のサーバに転送されていくのだ。そして残った肉体は安楽死処理をされて火葬場に直行した。


次に我夢が目覚めたのは量子コンピュータの中のデジタル世界だった。自分の名前の表札がついた部屋はたった3坪ほどで、壁はポリゴンなためぺらぺら。我夢が持ってきたデジタルデータは現金と絵のデータで、自分の絵のアイコンが壁に張り付いていた。隣に孝明の部屋があった。3分早く孝明が目覚めていた。孝明の見た目はアナログ世界と全く同じだった。
「おはよう親父、どう?デジタルの心地は。」
「昔と変わらんな。さて、何から手をつけようか。アバターの作成は後回しでいいな。あんなの遊び機能だ。まず住民票と戸籍の確認だ。それから二人の部屋を繋ごう。キッチンやバスルームも欲しいしな。生活物資も必要だ。」
二人は家を出た。通路の交差点に電柱のような情報端末があった。デジタル国分寺市と書いてある。そこでスキャナーに右手をかざし住民票と戸籍の確認をした二人は、買い物に出ることにした。無数の人が空を飛んでいた。移動するには通路を歩くより空を飛んだ方が楽だ。空を飛ぶのは簡単で、ただ頭でイメージすればいいだけだ。二人が宙に浮くと、家の屋根にも表札がついているのが分かった。高度を上げると、二人の家の地面の上と下に巨大な階層状にまた地面があって無数の建物が建っていた。上下を見ても何階層あるのかわからない。その階層の集合体であるタワー状のものが遠くにもいくつも見える。タワーの上下にはJRと私鉄が駅を造っていた。すでにあちこちに店の看板が浮いている。
「こりゃ迷子にならんようにしないとな。」
「親父、Jマートがあるよ。あ、ドンキもある。ジョイフル本田もある。」
「こりゃ便利だ。」
 二人は嬉々として買い物に飛んで行った。


アナログ吉祥寺の吉祥学園美術室は放課後で、美術部員が集まっていた。その双方向テレビ仕様の黒板モニタに突然火が入ったかと思うと、そこに現れたのは山口我夢だった。
「美術部の諸君、久しぶりだね。また会えてうれしいよ。」低い声で中世のアニメの悪役の真似をして我夢が喋っていた。背景には「山口」と表札のかかった家があった。空には人が飛んでいる。
「おお山口、というかデジタル山口?どうだそっちの生活は。」
「なかなか便利っす部長。何より外に出てもマスクしなくていいのが快適。」
「デジタルだからカクカクポリゴンかと思ったら違うのね。結構なめらか。」
「諫宮どうよ、俺の顔、CGなんだぜ。生身の顔と変わった?」
「全然変わってない。それと下の名前で呼べ。」
「それに、こんなこともできまーす。」
ジャンプしてくるっと回ると我夢は三毛猫に変身した。
「化け猫だ。」
「あ、いいなー。」思わず感嘆の声を上げたのは猫好きの森村みらんだ。
「いいでしょ。」猫が喋った。
「他の動物にもなれるし自分でデザインしたものにもなれるし、女の子にもなれる。」
我夢はアバターをノーマル、つまりアナログ時代の自分の姿に戻した。
「たとえばさ、壁にがーんとぶつかると」といいながら家の壁に頭をぶつける。
「おお。」
「いてー!い、いてえ。」
「あ、バカだこいつ。」
「でも怪我しなーい。病気にもならない。」
「お医者さんは商売あがったりだね。」
「腹はすくの?」
「いや?すかないよ。でもおいしいものを食べたい時には自分でおなかすいた状態にすることができる。」
「へえー。」
「夜になると眠くなる。」
「で、寝たときは夢は見るの?」
作品名:ユメノウツツ 作家名:中田しん