小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

ユメノウツツ

INDEX|7ページ/22ページ|

次のページ前のページ
 

2 デジタルコンバート


デジタル東京へようこそ。レポーターのNTVアナウンサー飯田綾です。私は先行マスコミ枠でデジタルコンバートしてデジタル東京に来ました。デジタル東京汐留エリアにあるNTV、Gスタジオからお送りします。
飯田さん、こちらはリアル東京の汐留NTVです。飯田さん、リアルのころと見かけが全く変わりませんねえ。
はい。顔面と体格をスキャンしましたから。こっちはメイクの必要が無いから楽ですよ。それにアバターを変えることもできるんですよ。ほかにも私のデータは私の脳細胞のニューロンネットワークのデータ、つまり私の産まれてから今までの記憶や性格や体質ですね。それから私のDNAデータ等がいわゆる私の人格データとして保存されています。
個人データの保護は万全ですか? 
こちらにも警察があります。もちろんプライバシーは確保されますが、他人の個人データに不正アクセスすると違法になりますから警察に逮捕されます。移動は足跡データが残りますから警察から逃げることはできません。
ついに人類の念願であった不老不死の実現です。
この世界には病気もありません。痴ほう症などもシナプススキャンによって記憶がよみがえるんですよ。
寝たきりのお年寄りも若返ることができます。若返って自分の好みの年齢になることができますが、リアルの年齢より年上に設定することはできません。
新たに子供を作ることもできます。もちろん自分で育てなければいけませんが。
リアル世界から持っていきたいものはデジタルデータであれば1人10テラバイトまでは無料です。それ以上は課税されます。たとえば自分のクルマをバーチャル世界に持っていきたければカーディーラーに車を持ち込み、デジタルデータに変換してもらってください。普通乗用車ならおそらく1ギガバイト程度になるでしょう。でもバーチャル世界のカーディーラーでクルマを買うこともできます。部品劣化がないのでクルマの故障はもうありません。
割安にはなるけれど不動産や家財を政府に買ってもらい、その資産はバーチャルに持っていくことができます。ローンや借金などは自動的に継続されます。
全ての日本国民にはまず無償で1人三坪のバーチャルホームが支給されます。それからお金をかければ土地を買ったり家を建て増しすることができます。家の中の部屋が離れた土地にあってもどこでもドア設定で一軒家と同じ感覚で住めます。
もちろん納税の義務はあります。
食事はどうなるんですか?三ツ星レストランの味も予約なしで味わえます。もちろん自分で料理もできますよ。私、トマトクリームのパスタを作るのが得意なんですが、先日デジタルのキッチンで作ってみました。同じ味でしたよ。一人前作ればあとはそれをコピーして何人前にも増やせます。出来の良い料理を作ったら保存して売ることもできます。もちろん料理にも著作権はありますから、他人のレシピで作ったものを売ることは犯罪になります。
全ての物には自動的に持ち主データと名前がつきます。名前を覚えておけば無くしてもすぐ家の中を検索して探し当てることができます。
ほとんどの大企業はすでにデジタル世界に本店機能を移しています。仕事は、業種によってはリアルの時の仕事がデジタル世界では用なしになってしまうこともあります。たとえば医療関係や介護関係などはデジタル世界では基本的に病気が無く全ての人が健康で、自分の好きな年齢に戻れるので仕事がありません。そういう方は大変ですけど転職していただくことになります。
デジタル世界への移住で、地球への環境負荷はリアル人間の一万分の一以下になります。地球環境はゆるやかに復活していくことでしょう。


「昨日のデジタルコンバートの番組見た?」
「見た見た。で疑問なんだけどさ。」
 放課後の美術室は今日も美術部員が集まっている。
「デジタルコンバートすると今の体っていうか今の意識はどーなるわけ?」
「知らないの?そりゃ寝ているうちに安楽死処理するんだよ。」デジタルコンバートに詳しい我夢が答えた。
「やだそれ。」
「つまりコンバートっつって結局自分をコピーして自分は死んじゃうわけ?」
「でも実際わかんねーって。わかんねーうちに気がついたらデジタル世界の住人だ。」
「リアルの体を安楽死させなかったら自分が二人になるわけ?」
「そりゃそーじゃん?」
「それもどーかな。」
「ねえところでみんなでプールいかない?」
「なんか話題が飛んだな。」
「俺は海に行きたい!海行こうぜ海!泳ごうぜ!」
「バカ。皮膚がんで死になよあんた。」
 砂浜の減少と危険な太陽光線で海水浴は過去のレジャーだった。
「しかもまだ春だよ。」
「デジタルコンバートすりゃ海だろうが空だろうが。」
「バーチャルかよ。プールにしとこうよ。」


東アジア連邦各地では反日デモが激化していた。この原因は中共、朝鮮独立時代から続いていた反日教育が完全に東アジア連邦人民に浸透し、また連邦政府が愛国心を高めるためにかつての敵であった日本の蛮行をセンセーショナルにあおりさらに20世紀よりも強烈な反日教育を行った結果だった。
しかもかつて共産党が一党独裁していたころは国家の意思でデモの鎮圧も容易だったが、民主化を果たした現在において政府の意思を国民に強要するのは不可能になっていた。さらに東アジア連邦政府はこのデモを民意と受け取り、日本に対して強硬な姿勢を崩さずにいた。
東アジア連邦政府は在北京の日本大使を数回にわたって呼び寄せ、日本政府の態度は懲罰の対象となるとして恫喝に近い態度で言い渡した。これをうけて日本政府は恫喝には屈しないと声明を発表。両国関係は一層の悪化を辿っていた。
一方アメリカ合衆国大統領は日本を支持すると声明を発表し、ハワイ真珠湾から空母バラク・オバマを中心とする機動部隊を日本に派遣することにした。


放課後の美術室では森村みらんが木片を彫っていた。傍らでは諫宮るみながデジタルキャンバスで人の顔をモデリングしていた。
みらんが手を止めて我夢の後ろ姿を見てため息をついているのを、るみなが見逃すはずはなかった。るみなは小声で「森村さん、あんた我夢のこといつも見てるでしょ。」
かぶりを振るみらんはまた小声で、「え?そんなことないよ。」
「あんたがそんなだったら我夢取っちゃうぞ」
「え?と、取れば?」
がばっと立ち上がり大声で「ゴルァ!」一同るみなを見る。
「何やってんだ?」
我夢も振り返った。
副部長かちゆに羽交い絞めにされたるみなはじたばた暴れながら、「あんたがそんなだから!あんたがそんなだから!」等とわめいている。。そのままかちゆに引きずられて美術室から退場させられていった。
「…まあいつものことだが。」事情を知らない我夢はまたデジタルキャンバスに向かった。


雨季に入って毎日スコールが降る吉祥寺は吉祥学園のお昼時。生徒の基本は弁当持参だが校内にパン屋が入っていて、弁当を持ってこれない事情のある生徒に対応していた。
 我夢はひとり親だし自分で弁当を作る趣味も無かったので、お昼はだいたいパンで過ごしていた。頼舵は親が海外に行っていて1人暮らし同然なのでこれもまたパン屋のお世話になっていた。
「我夢、昼飯買いに行こうぜ」
作品名:ユメノウツツ 作家名:中田しん