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ユメノウツツ

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「デッサンは絵の基本だよ。しっかりしたデッサン力がないとまともな絵にならない。やみくもに抽象画を描いてもデッサン力が無いと絵に説得力がない。特に今日は集中力が無いぞ我夢。何か気になることでもあるのか?」頼舵が得意そうにまくしたてた。
「いや、バイクメンお前…!」
「だーかーら、バイクメンはやめろって。」
「お前らそんくらいにしとけよ。喧嘩は表へ出てやってくれ。ここは神聖な美術室だぞ。なあ、おかーさん。」さすがに獅子が仲裁に入った。
「ま、二人はいつもこんな感じなんだけどネー。」おかーさんことかちゆがみらんにフォローを入れた。
「はあ…。」みらんは苦笑するしかなかった。
 るみなは我夢を横目で見ている。その我夢はみらんを見ている。
「んー。恋だネー。」かちゆが呟いた。


東京のビル街をバックにニュースオープニングタイトル。カットスタジオに変わり、アナウンサーが一礼する。
「こんにちは。NHKお昼のニュースです。政府は先の東アジア連邦政府からの天皇制破棄の申し入れに対して、東アジア連邦大使を官邸に呼び、先の申し入れは日本としては到底受け入れられないと正式に回答しました。これに先立ち飯岡官房長官は記者会見で、東アジア連邦の申し入れは内政干渉であり、受け入れられるものではない。先の大戦については過去に謝罪をしており、中国に対しては賠償を放棄したのは当時の中国政府であり、韓国に対しては過去の条約にて賠償済みであるとの談話を発表しました。これに対して東アジア連邦国内で反発の声が上がるのは必至で、両国関係に影響を及ぼすことが心配されています。この談話を受けて東証では輸出関連銘柄を中心に値を下げており、午前の東証平均終値は昨日より300円近く下げています。」


 井の頭公園は地球温暖化や強毒性鳥インフルエンザによる影響で、21世紀初頭と多少魚や鳥の種類が変わったが都会のオアシス的存在は変わらず、桜の咲く季節は変われど桜の名所だった。
 吉祥学園美術部の面々が写生に出かけたのは部長霧島獅子の発案だ。
「マスクが鬱陶しいなあ。」汚染物質よけのマスクにたまらず漏らしたのは我夢である。
「そう言わずに、たまには風景画も描こうぜ。」獅子はそう言ってみんなをなだめ、池の縁の斜面までみんなを引率した。
 皆それぞれ思い思いの場所でイーゼルを開き、デジタルキャンバスの電源を入れた。デジタルキャンバスはバッテリー駆動もできる。
 我夢、頼舵、るみな、みらん、かちゆ、獅子はなぜかひと塊りになって陣取った。気になる人の近くにいたいというのは自然なことではあろう。
「鳥は動くからいけねー。描けねー。」はなからやる気の見られない我夢はそう言って、絵筆を鼻の下にはさんだ。
「心の目で見ろ。♪目の奥で円を描き、幻を追い払え。」獅子はいきなり歌いだした。
「なんですかそれ。」
「中世の歌。坂本龍一だよ。じいちゃんから教わった。」
「へえ、坂本龍一ねえ。アカデミー賞受賞者であだ名は教授。」
「バイクメンよく知ってるな。」
「バイクメンはやめろ。」
「だべってないで描けよゴルァ!」
「うわ、るみなが怒った!」
そんなみんなの様子を見てみらんがほほ笑んだ。
「むー。」我夢は腕組みをして辺りを見回した、ふりをしてみらんの絵を見た。
「森村さん、なかなか上手いじゃん。」
「ありがと。」
「ゴルァ!そこ!だべってないで描く!」
「真面目に描けよ我夢。」
「えらいすんません。」我夢は自分の後頭部をぽんと叩きおどけた。
「んー、諫宮さん部長みたい。あるいはジェラシー?」
「副部長!何がジェラシーですかッ!」
「あ、聞こえた?」


「せーの!」
「俺メンマ抜き。」
「こっち大盛り。」
「チャーシューサービスしてよ。」
「俺麺バリカタ。」
「あたしネギ抜き。
「あたし麺やわらかめ。」
「…あのー、最初からもうすこしゆっくり言っていただけませんか?」ラーメン屋のロボットがカウンターの中で困惑していた。
「あははははAIに勝ったー。」
「いえーい!」
そのラーメン屋は値段の安さを売りにしたチェーン店で、ラーメン一杯高校生の小遣いでも充分だった。写生上がりにラーメン屋に寄ろうと言いだしたのは我夢で、その話に乗ったのは例の6人。あらためて注文し直すとロボットは慣れた手つきでラーメンを作り始めた。我夢は切りだした。
「ニュース見た?日本政府、東アジア連邦を突っぱねたっていうの。」
「あー、あの天皇制をやめろっていうやつ?」
「東アジア連邦ってさ、あれ、一応4000年の歴史なわけでしょ?ラーメンだってあっちから来たんだし。」
「ラーメンはこの際どうでもいいだろ?」
「まそうだけどさ。文化とかあっちから来たわけじゃん。」
 湯気を立てたラーメンをカウンター越しに受け取る面々。我夢はスープをずずーとすすっては話を続けた。
「美味い。で、だから一緒になれ、ていうのがあっちの言い分だよね。」
「それはそうだけどさ、軍艦で領海侵犯とか?偵察機で領空侵犯もやってさ、演習で弾道ミサイルばかすか撃って日本を脅して一緒になれも無いよなあ。」部長の獅子が麺をかきまぜながら言った。
「日本はどうすんだろうな。」
「それは飲まないだろ、普通。だっていまだに日本に賠償しろとか金よこせとか言ってんだぜ。暴力団に絡まれているのと一緒だ。」頼舵が憤懣やるかたないといった風に言った。
「そりゃ気持ちはわかるけど、そうしないと戦争になるよ。自衛隊勝ち目あんの?」るみなが困った顔で言った。
「知らない。」
「まともにやって勝てる相手じゃない。」頼舵が真面目に言う。頼舵は外交とか防衛といったニュースに詳しかった。
「アメリカが助けに来てくれんじゃね?」
「いや来ないだろ。アメリカはテロだらけでそっちが大変でよその国どころじゃない。」
「じゃインド。」
「インドは日本と仲がいいけどそれも無いと思うよ。多少手伝ってくれっかもしれないけど。」
「俺は東アジア連邦が許せないな。けしからんよ。」
「そりゃ気持はわかるけどさ。」
「いざ日本がヤバくなったらデジタルコンバートして外国に逃げるかな。」
「んー。男らしくないネー。」高校生達の話題としては結果が出るはずもなかった。
作品名:ユメノウツツ 作家名:中田しん