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ユメノウツツ

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まともなスーパーはやっていなかった。当初はネット通販で生活物資を仕入れていた我夢だったが次第にネット通販も配達不可能になってきたので、遠く立川あたりまで買い出しに出かけたりした。
我夢はことあるごとにみらんに自分の事を話しかけ続けた。
 曰く。
「俺、実は自分の母親のことあんまり覚えてないんだ。俺の母親は俺が6歳の時に事故で死んだ。それからずっと親父と二人暮らし。親父もへこんでたと思うけど親父はカラ元気な人でね。いつも明るくて俺を元気づけてた。」
「俺、直接じゃないけど戦争で大勢の人を殺した。信じてもらえないかもしれないけど、俺のアイデアで自衛隊が秘密兵器を造ってて。それで東アジア連邦軍を壊滅させた。日本にミサイルを撃って人を殺した連邦軍と同じことを、俺のアイデアがやった、いや、俺が殺した。」
「頼舵が実は自衛隊の人工知能だったそうだ。俺、あいつとは親友だと思ってた。あいつ、戦争に行って、戦闘機に乗って撃墜されたそうだ。なんでこんなに大勢人が死ぬんだろうな。俺が泣きたいよ。介護ロボットじゃ涙も出ないけどな。」
我夢は介護プログラムを使ってみらんの体調管理をしてやった。
「みらん、今日も平熱。血圧はちょっと低め。体重が落ち気味。脳波停滞。体は一応健康だけどちゃんと食べないと。」


周りはどんどん人間が減っていき、街は廃墟同然になってしまった。
いつまでこんなことを続けるのか。
二人で並んでテレビを見る。
 テレビでは小平ローカルのチャンネルが、あと何日で放送終了だとか、どこの企業がアナログ営業終了のお礼だとか、しまいには環境映像にテロップニュースだけといった有様になっていた。
「西武鉄道は9月30日をもってアナログ世界での営業を終了させていただきます。今までのご利用、ありがとうございました。」
「電車、止まっちゃうってよ。」
「どうでもいい。そんなこと。」
「そうだみらん。せっかくだからさ。電車が止まる前に吉祥学園がどうなったか見に行ってみないか?」
「私はいい。」
「そんなこと言わずにさ。行こうぜ。」
「わかった。我夢がそんなに言うのなら行く。」
 外は強風が吹き荒れていた。久しぶりに外に出た二人は空を見上げた。空には色とりどりの光のカーテンがゆらめいている。
「なんだあれ。ひょっとしてオーロラじゃん?」
「奇麗…。」
 電車の間引き運転はさらに酷くなっていて、かつては森村家から30分で吉祥学園に行けたのに2時間かかった。車窓から見る町並みは全く廃墟で、人の気配が無い。電車に乗っているのも二人だけというシュールな光景だった。
 吉祥寺の見慣れた町並みはゴーストタウンと化していて、店にはシャッターが下がり、住宅は雨戸を閉めていた。強風でシャッターがばたばた音を立てている。
 吉祥学園の北校舎が崩れている。閉じた校門を乗り越えて進む。昇降口からは中に入れず、外階段で4階まで登ると美術室がミサイルの直撃を受けたのか大破していて黒板は割れ、大テーブルはひっくり返り風雨にさらされて酷い有様になっていた。
「これが私たちの美術室…。」
「酷いなこれは。」
「なんで!どうしてこんなことになっちゃったの?」介護ロボットに抱きつきみらんは涙を流した。
「みらん…。」
 二人は長い間抱き合って泣いた。
 エピローグ


 そこはかつて東京とよばれていた街の跡。街の主だった人間達はことごとくデジタルコンバートしてしまい、かつてクルマであふれていた道の真ん中には大木が生え、野犬と化したかつての飼い犬や野良猫と化した飼い猫たちの楽園になってしまった。東京サーバそのものでさえ蔦に覆われ、守備する自衛隊の歩兵ロボットや無人戦車や対空システムだけがメンテナンスされていた。
 1人の少女と1体の介護ロボットが人のいなくなった東京の街を放浪していた。彼らがかつて森村とか山口とかいった名字を持っていたことも半ば忘れてしまった。介護ロボットは太陽光発電パネルを背負い、自らの消費するエネルギーを自給していた。少女は倉庫の跡から食料の缶詰を入手して食べた。介護ロボットが少女に尋ねた。
「うまい?」
「まあまあ。」
 介護ロボットに入っているデジタル人格は、少女に徐々に表情というべきものがよみがえっているのを感じていた。


教会の廃墟があった。屋根は抜け落ちてしまい壁だけになっている。それでも壁の上には十字架がそびえていた。教会の裏には畑があり、人間の牧師が耕していた。少女と介護ロボットを見つけた牧師はうれしそうに言った。
「おや珍しい、人間がやってきましたよ。あなたに幸あれ。」
「こんなところにアナログ人間が残っているとは。」
「この世界に1人でも人が残っている限り私もこの体をこのまま残そうと思いましてね。」
「あ、そうだ。いいアイデアがある。みらん、結婚式、してもらおうよ。」
「うん。」
「しかし人とロボットの結婚というのも。」
「俺は人間です。」
「そうですか、わかりました。そうだ、準備があるので一日待ってもらえませんか。もちろんタダでやらせてもらいますよ。あなたがた、お名前は?」
「森村みらん。」
「ロボットじゃありません。山口我夢です」
「あと、パーソナルデータも教えてください。」

 我夢とみらんは近くの一軒家の廃墟で一夜を明かすことにした。何と水道が生きている。
「すごいぞみらん、蛇口をひねると水が出るよ。」
「我夢、あなた、介護ロボットなんでしょ?」
「いや俺は人間だよ」
「介護プログラムは残ってるんでしょ?」
「ああ。」
「私をお風呂に入れて。」
「へ?だって…、へ??」
「わからない?私を洗ってって言ってるの。結婚式の前に奇麗になりたい。」
「裸を見ることになるけど、いいの?ていうか、ヤケおこしてない?」
「今のあなたなら襲ってこないでしょ。」
「なんだかなあ。」
「介護ロボットだったらお姫様だっこ得意でしょ。」
「そりゃまあ。」
夜は少女と介護ロボットは抱き合ってすごした。
「ああ!センサーが足りねえ!(もっと君を感じたいのに)!」
「あたし、我夢の子供、欲しいな…。」
「今は無理だね。俺、ロボットだから。」
「嘘。俺は人間だって言った。」


翌日はスコールも雷も無く、穏やかないい天気だった。
教会にロボット達が三々五々集まってきた。介護ロボットあり、産業ロボットあり、家事ロボットあり、二足歩行型もキャタピラ型もぞろぞろとやってきた。
我夢とみらんは一体何事かと牧師に尋ねた。牧師が答える前に1体のロボットが答えた。
「やだなあ、吉祥学園美術部だよ。」
「え、みんな…?」
「おめでとう!」
「おめでとう!」
「んー、幸せだネ。」
「我夢、よかったな。」
牧師がにこっと笑って二人に話しかけた。
「立会人がいないと結婚式らしくないでしょ?」
「牧師さん…。ありがとう。」みらんは泣き出した。
「検索したらすぐヒットしましたよ。お二人を探してらした人たちです。」
「我夢、おめでとう。森村さんには俺も目付けてたんだけどなあ。」
「お前、バイクメンか!」
「戦争から生きて帰ったぜ。」
 二体のロボットは不器用にお互いをばんばん叩いて感情を爆発させた。
「いやてっきり撃墜されて死んだと。」
作品名:ユメノウツツ 作家名:中田しん