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ユメノウツツ

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「それは解釈次第です。日本政府はこれ以上の侵略行為は絶対に許さない。それと山口君。第二次大戦の真珠湾攻撃は民間人に被害はほとんど無かった。可能な限り卑怯なことはしなかった。それがなぜあれだけだまし討ちだ卑怯だと叩かれたか。一方の連合軍が日本の民間人を原爆や空襲で数十万人規模で虐殺したのに非難されないか、わかりますか。」
「いいえ。」
「日本が戦争に負けたからだ。戦争はどんなことをしても勝たなければならない。それが第二次大戦に負けた日本にとっての最大の教訓だ。正義とか悪とかそういうレベルの話ではない。戦争は勝たなければいけないのだ。」
「それがこれからのデジタル世界の中での日本の地位にも影響すると?」
「もちろんそれもあります。」
それでも我夢にはふんぎりがつかなかった。何だろう、何かすっきりしない。
「どちらにしても、山口君がイエスと言わなくともK装備は発動する。」
「…そうでしょうね。俺はただの民間人です。こんなところに入れただけでもありがたいことです。」
「君は賢いな。その通りだ。しかし顔には違う意見が書いてあるように見えるが。まあいい。」
「はあ。」
「まず、K装備発動の最大の問題は何だと思う?」
「起動電力の規模でしょう。日本全土の全電力を回しても正しく稼働するとはかぎらない。」
「その通りだ。一万分の一規模での実験は済んでいるが、実際の出力で実験するわけにもいかんのでね。」
「電力集中のための設備も完成しているんですか?」
「その工事も本体の建造と同時に進められた。各電力会社間の電力の融通は2011年の東日本大震災後に強化されたが、今回はそれをさらに進めて各電力会社の全電力を北海道に集中させることが可能になった。」
「ニコラ・テスラの世界システムを攻撃に使うとなると、最低でも一億キロワットは必要だと思います。」
「日本全国の発電量は合わせると約二億三千万キロワットになる。」
「電線が持ちますか?」
「もちろんだ。そのための工事だ。さて目標だが、まず第一に現在九州に押し寄せつつある揚陸艦とその護衛艦艇に対して。第二に東アジア連邦の核兵器、ミサイルサイロに対して。第三に東アジア連邦国防総省と各地の軍事基地。それぞれ5秒の照射を行う。」
「東アジア連邦が貯蔵している核兵器が爆発することは無いんですか?」
「ミサイルの制御回路と核爆弾の起爆装置は無力化できると予想している。その際爆発することは無い。ただ、近距離での水蒸気爆発で核物質が飛散する可能性はあるだろう。」
「それは核を装備した国にとっては自業自得でしょうかね。」
「まあそういうことだな。大事なのはこの攻撃に対して核で反撃されないことだ。」
「連邦軍の潜水艦はどうするんですか?」
「重要だ。そればかりは通常兵器で潰さなきゃならん。現在海上自衛隊の潜水艦部隊がしゃかりきになって戦略原潜狩りをしているところだ。」
「トンネルに隠れているミサイルもありますよね。」
「それも重要だ。」
「それで潜水艦や核ミサイルは100パーセント叩けるんですか?」
「それは君の知らんでいいことだ。」
「そうですか。」
「さて電力のスタンバイができつつある。」
巨大プロジェクタに表示された日本列島にSTAND‐BYの文字が多数広がっていた。
プロジェクタの一つにピラミッド状の階層構造が描かれている。その最下層が緑色になっている。
そのころ東京サーバでは一斉にサイレンが鳴り響いていた。「こちらは防衛省です。非常事態宣言が発令されました。このサーバはこれより非常回路のみを残して電力の供給を一時的に停止します。この措置によって個人データに影響が出ることはありません。ただし復旧までは眠ってもらうことになります。現在全国のサーバで同じ措置が取られています。」
 アナログの日本全国各地でもサイレンが鳴っていた。
国分寺市の諫宮家ではるみなが心配そうに外を眺めていた。
「こちらは東京電力です。これより防衛省からの要請により東京電力からの電力供給を一時的に停止します。住民の皆様にはご迷惑おかけいたしますがご理解ご協力お願いいたします。」
「停電だって。何だろうね。」
 デジタル市ヶ谷の指令室では階層構造の二段目が緑色になった。全国の電力が北海道に集中されているようだ。
「山口君、いよいよだ。」
「…。」我夢は生唾を飲み込んだ。
 階層構造がそのトップまで順々に緑色になっていく。
 目標を図示するプロジェクタには対馬海峡と東アジア連邦の地図が表示され、確認された艦隊と軍事基地が表示されている。
 責任者が何やら指示を出すと、センターのプロジェクタに赤色で「照射」の文字が出た。
 目標の艦や軍事基地が次々に赤くなっていく。
「効果はどうか。」浜崎二尉がプロジェクタを凝視している。
 我夢も意味がわからないプロジェクタの表示を必死においかけている。


博多水際絶対防衛線では普通科ロボット兵が塹壕に身を隠している。人間の士官が双眼鏡で海を見つめている。士官が上官に報告をしていた。
「水平線上にきのこ雲を多数観測。」やがて衝撃波と津波が博多を見舞った。


二億キロワット以上の出力の指向性マイクロ波ビームは地球の電離層によって捻じ曲げられさらに増幅されて、全地球上の任意のポイントに到達する。
東アジア連邦の艦船が一隻のこらず大爆発して沈没していく。
陸海空軍基地の施設や兵器が片端から水蒸気爆発を起こしていく。対空システムも全く意味をなさない。
ミサイルサイロが爆発する。核ミサイルの起爆装置が強烈なEMP効果で無力化され、水分を持った物体が水蒸気爆発を起こす。


生き残ったスパイ衛星からのリアルタイム映像がデジタル市ヶ谷に届いた。そこには無数のきのこ雲を真上から見た映像が捉えられていた。
「成功だ!」浜崎二尉が頷いた。
「ああ…。」我夢は声にならない声を出した。


東アジア連邦軍全施設、艦船に対する指向性ビーム攻撃により東アジア連邦軍は壊滅、東アジア連邦はこれ以上の軍事行動が取れなくなった。
太平洋に潜伏中の戦略原潜からは日本本土に向かってミサイルが発射されなかった。
移動式弾道ミサイルも同じく。これらは指揮系統が破壊されたためと思われた。
 南西諸島には自衛隊が逆上陸を果たし、ほぼ無血で奪回に成功した。


戦争が終わった。
東アジア連邦では軍事力の空白が発生し、数日後チベット共和国が分離独立、少数民族の独立運動が激化し、治安が悪化した。以後インド軍とロシア軍を主力とする国連軍が駐屯することになる。
作品名:ユメノウツツ 作家名:中田しん