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ユメノウツツ

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5  回天


 九州各県のサーバが物理的に破壊され、数百万人が死亡したことは日本人をさらに恐怖させた。航空自衛隊は瓦解し、日本本土の制空権は東アジア連邦軍の手に渡ったも同然だった。国を捨て、欧米海外のサーバへ疎開移住する人も増えた。
 東京サーバデジタル国分寺市の山口家でもおろおろと家族会議の真っ最中だった。
 家族会議と言っても二人しかいないのだが。
 我夢が「うちも疎開した方がいいかなあ。」と切り出すと父親の孝明が
「東京サーバも危ないかもしんないね。しかしそうすると仕事がなあ。まあ言葉は自動翻訳でなんとかなるにしてもなあ。」
「その前に日本が降伏しちゃうんじゃないか?」
「それも有りうる。」
 その時ぴんぽーんと場違いなドアホンが鳴った。ドアカメラで見てみると、なんと紙袋を上下ひっくり返して足が生えているアバターだった。
「かわいいお客さんだ。」
「ごめんください。山口我夢さんいらっしゃいますか。」紙袋がごそごそしながら言った。
「はいはい、おりますおります。」
「市ヶ谷から来ました浜崎といいます。山口我夢さんに用事があるのですが。」
玄関を開けると紙袋がよちよち歩いて家に入ってきた。
「本来の姿で街中を歩くと目立つもので、すみません。」言うなりくるっと回ると自衛隊の制服の士官になった。
「自衛隊の方ですか。俺に何の用事ですか?」
 浜崎は我夢に名刺を差し出した。受け取ると「陸上自衛隊Kプロジェクト 浜崎二尉」とある。
「Kプロジェクト?」
「我々はこの戦局をひっくり返すための最終兵器、K装備を完成させました。」
「K装備?」
「地球の電離層を使った指向性マイクロ波ビームの増幅現象というアイデアはきみのブログからいただいたものだ。」
「そんな、あれは」
「それから防衛省先進科学研究所がK装備として開発し、先日北海道に完成した。」
「俺のせいなんですか?それ。」
「君のおかげだ。これで東アジア連邦軍を叩きのめすことができる。是非オブザーバーとしてK装備発動を見届けてほしい。必要な助言も欲しい。」
「わかりました。行きます。俺に責任がある。あとひとつだけ。自衛隊の人工知能ロボットの竹島頼舵を探してます。彼と連絡が取りたいです。探してもらえますか。」
「いいでしょう。では一時間後にデジタル市ヶ谷の防衛省にて。」
 言うなり浜崎二尉はまた紙袋に変身した。
「それからこのことはくれぐれもご内密に。」それだけ言うと紙袋は出て行った。
「我夢。疎開どころじゃなくなっちゃったなあ。」
「何なんだ、一体。」
「それは俺のセリフだ。お前、何かブログに書いたのか?」
「ニコラ・テスラの理論を引用して説明しただけだ。」
「ニコラ・テスラねえ。普通の人は知らないよなあ。」


「臨時ニュースです。紛糾し続ける国連の緊急安全保障理事会では日本が東アジア連邦に対して遂に宣戦布告しました。今村国連大使は、これ以上の侵略行為には東アジア連邦軍の全戦力の無力化をもって当たると宣言しました。この結果生じる東アジア連邦の国民の命の損失の責任は侵略行為を行った東アジア連邦自身にあると表明。東アジア連邦の代表はこれに応じず、そんなことが可能ならやってみるがいいと突っぱねました。」


 山口我夢は悩んでいた。彼が興味本位に書いたブログの内容が真実だったとしたら、それに従って造られたK装備とやらは原子爆弾や水素爆弾を超える超戦略兵器になる可能性がある。平和国家を標榜する日本がそんなものを使っていいのかという疑問。その結果失われる人命の数は万単位どころではすまないかもしれない。しかしブログの内容が偽りだったとしてもこのままでは日本は侵略され、さらに大勢の犠牲者を出し、国自体が無くなってしまうだろう。さらに我夢は高校生の分際で非常時に国費で無用の長物を造らせた責任を問われることになるだろう。
「どっちにしても最悪だ。死神のような英雄になるか国を疲弊させた非国民になるか。」
「まるで原子爆弾みたいな話だな。成功しても失敗してもろくなもんじゃない。」父の孝明が我夢に答えた。
「でも責任は俺にあるんだよなあ。困ったな。」
「困ったなってお前、そりゃ困った事態だが、造った国の責任の方が大きいだろう。中学生がブログに何書いたって責任は問われないと思うぞ。それに侵略されてんだから国としては何かしないと犠牲者がもっと出るぞ。」
「いやそれもそうなんだけどね。俺着替えるわ。」
 我夢は一張羅で新品のデジタル吉祥学園制服に一瞬で着替えた。
「我夢。俺も行こうか?」
「いや、いいよ。」
「まあうまくいこうがいくまいが、お前が心配することは無いだろうよ。国が勝手にやったことだ。責任うんぬんは無いだろう。」
「うん。ほじゃ。行ってくる。」
「気をつけてな。」
 我夢は家を出ると地盤平面の中心にある縦シャフトに向かった。シャフトは上下の連絡を受け持っていて、最上地盤にはJRのデジタル国分寺駅がある。路線はアナログ時代を模していて、JRは中央線が、最下地盤にある西武のデジタル国分寺駅には国分寺線と多摩湖線が走っている。我夢は中央線の上り電車に乗った。宙を飛ぶ電車の四谷で総武線に乗り換え、市ヶ谷へ。デジタル新宿区はその経済規模にあわせてひときわ巨大な円盤の集合体で、デジタル市ヶ谷はその片隅にあった。
 防衛省は国の組織の中でも規模は最大なので、建物も大きい。しかし人員のほとんどが未だアナログ世界で奮闘中なので、がらんとしていた。守衛に来訪を告げ、敷地内に入る。
「Kプロジェクトの浜崎さんをお願いします。」
通された部屋は巨大プロジェクタが何面も壁に設置され、オペレータ用モニタが何列も並んだ指令室が、ガラス張りで見渡せる個室だった。部屋そのものはテーブルがあるだけの小会議室といった趣きで、指令室に向かった壁が広いガラス張りになっている。指令室の喧騒はこちらには聞こえてこない。まるでドーム球場の来賓室みたいだと我夢は思った。
「やあ、こんにちは。自分が作戦の間中、山口君の相手をします。」
 浜崎二尉は当たり前ながら制服姿で現れた。
「こんにちは。で、さっきの竹島頼舵の件ですが。」
「彼は先の九州防空戦で戦闘機に搭乗して出撃、撃墜されました。」
「頼舵が死んだ…?本当ですか。」
「事実です。」
「そうですか。」
¦今度は俺の番だ…。
「ひとつ聞きたいことがあります。」
「何ですか?」
「本当に日本にその覚悟があるんですか?」
「覚悟とは?」
「核兵器を超える超兵器を史上初めて使用する覚悟ですよ。」
「今使わなくてどうする。侵略軍は間もなく博多に押し寄せる。」
「核兵器を初めて使ったアメリカのように、孫子の代まで恨まれます。第二次大戦の侵略行為なんか吹き飛びます。」
「K装備はあくまで軍事施設と艦船に対して使用します。民間人の損害は最小限で済む。広島や長崎とは同列ではない。」
「憲法との兼ね合いはどうするんです。」
作品名:ユメノウツツ 作家名:中田しん