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ユメノウツツ

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 そして状況の設定も実際に合わせて苛烈なものとなっていった。一対一なら先手を打てば有利だが一対多ではミサイルを発射した時点で正体がばれ、集中攻撃を受けて撃墜されてしまうことが多い。そんな状況でも国の虎の子のF5は生きて還らなければならない。
 原口は思った。かの坂井三郎だったらこんな場合どうしただろうかと。
F5の対G限界が75Gとはいっても、空対空ミサイルの方がどうしても機動性は良い。複数のミサイルにロックオンされた場合どう回避するかは、そのミサイルのアルゴリズムを解析して裏をかく必要がある。アルゴリズム解析は頼舵の機能が重宝する一幕だ。


「レイブン、今の自衛隊の全装備って確認したことありますか?」
「いや、無い。というか俺のような浦島太郎には理解できないよ。」
「そうですか。陸海空それぞれ正面装備バックアップありまして、俺の存在もデータに入っていたんですが、俺を作った先進科学研究所がほかに何を作っているか調べてみたくなりまして。」
「ほう、それで何か見つけたのか?」
「分類としては陸自に入るみたいなんですが、その中でK装備ってのがあるんです。詳細を見てみようと思ったらアクセスできないんですよ。何のことだと思いますか?」
「Kねえ。決戦?回天?」
「回天ってなんですか。」
「昔の言葉で戦況をひっくり返すというような意味だ。」
「じゃあK装備が自衛隊の最終兵器ということですかね?」
「核を装備できない日本の切り札の可能性はあるが。ただの何かの軽装備かもしれんぞ。」
「うーん、一発逆転できないかと思ったんですけどね。このままじゃ何と言うか。じり貧?」
「それ以上言うな。俺達には与り知らんことだ。」


原口と頼舵のコンビがコンバットレディに入るのと、連邦軍の「正義の光作戦」が発動するのとほぼ同時だった。半島の海軍基地を揚陸艦を中心とする大艦隊が出港し、空では最新のJ50戦闘機200機を全面に押し立てて侵攻してきた。自衛隊はF5戦闘機24機で迎撃した。ここに世界初の第七世代戦闘機同士の空中戦が生起した。


 対馬海峡上空ではミサイルが飛び交っていた。双方の戦闘機は自ら電波を発信することなく後方のAWACSからロックオン情報をもらいミサイルを発射した。ステルス戦闘機とはいえ全ての方向に電波を反射しないわけではない。そのためあらかじめあちこちにレーダー電波の受信装置付きのUAV(無人機)を飛ばしておき、ネットワーク化してAWACSで解析することでステルス機を見つけることが出来る。UAVは一般に低速なので、超音速侵攻能力を持つ戦闘機での作戦では守る側がやや有利と言えた。だが東アジア連邦軍は自衛隊のUAVを見つけ次第たたき落としてくる。ミサイルの備蓄は豊富なようだ。物量の差は明らかだった。自衛隊の戦闘機は低速のUAVの群れにまぎれるようにして飛んでいた。
『日本軍国主義の亡霊め!正義の力の前に滅びるがいい!我々に対して刃向うことすなわち平和への冒涜である!』連邦軍のECMが大出力で発信されていた。それは実際ECMとしてよりも宣撫放送としての役割であるらしかった。
無理やり放送を聞かされる側の原口はいらいらしていた。
「バイクメンよ。これあんまりだと思わんか?」
「俺も『日本人』ですから酷いと思います。」
「俺は自衛官だから一応過去の歴史の勉強もしたさ。でもここまで言われる筋合いは無いぞ。日本に感謝してる国だってあるのに。俺達の祖先はこんなにも恨まれるようなことをしたのかよ!」
「彼らにとって日本は悪じゃないと困るんですよきっと。」
「じゃないと自らを正当化できないか。それも酷い国だな。おっと出撃指令だ。」
築城基地のエプロンで待機していた原口機にAWACSが地上からの信号で出撃を促していた。
「バイクメン、AWACSの位置を間違えるなよ。でないと空中で迷子になるぞ。」
「大丈夫です。」
「硬くなるな。気楽に行こう。発進シグナルを出せ。」
「了解。」
 原口機は簡単に垂直に飛び上がり、そのまま高度一万メートル付近まで軽々と上昇した。AWACSにレーザー通信を送ると交信が成立する。対馬海峡への展開指令を受け取ると目立たないように亜音速で前進した。指示されたポイントでは自軍のUAVがランダムに飛び交っていた。一見無秩序に見える航跡はしたたかに計算されたステルス機への罠だ。
 そして敵はすぐに現れた。
「AWACSより入電!J50の二機編隊です!2時の方向、距離55000、高度12000。マック3。」
「よーし向こうはまだこっちに気づいてないな。FOX1アタック!」
「ターゲットインサイト、ロックオン情報ダウンロードよし、撃ちます!」
「敵が撃った!こっちの正体がばれたぞ!全弾命中!退避!」
 原口機は踵を返して一旦後方に下がる。それを追いすがるようにしてミサイルが飛んでくる。
「レイブン、回避シークエンス、1コンマ05秒後にベクトル170、60度へ!」
「了解!」
「光学迷彩!」
 70Gを超える重力加速度の中で原口機がかろうじて敵弾をかわす。
前線がじりじりと九州本土側に後退していた。すでに対馬は敵の制空権内だ。前方で善戦むなしくUAVが次々と撃墜されていった。
「あのUAV、みんなAI積んでるんですよね。」
「バイクメンにとっては同類か。」
「ええ、戦友です。」
 原口機は命令により一旦本土上空まで退避した。数に勝る連邦軍は正面だけでなく側面突破も図ろうとしているようで、五島列島上空でも空中戦が始まっていた。
「レイブン、AWACSから長崎にまわれと言ってきています。」
「了解。このままでは戦線に穴が開くか。」
 超音速で西に向かうと前方で多数の爆発反応があった。
「IRSTに多数感有り、10時の方向から1時の方向、高度8000から10000、マック3。数15以上」
「網を突破した敵だ!叩き落とすぞ!FOX1アタック。」
「全部行きます!」
「良し、撃て!」
 原口機は本体腹のウェポンベイを開くと積んでいた空対空ミサイルを全部ばらまいた。ロックオンはミサイルを発射してから行う。
ミサイル達が急激な旋回をして目標に向かう。
「アルファ、ベータ撃墜、ガンマは外した、デルタ撃墜…。」
連邦軍機から多数のミサイルが原口機に覆いかぶさるように向かってくる。
「叩き落とす!」
 原口機は機首のレールガンを連射した。空中で爆発が相次ぐ。しかしプールしたエネルギーが尽きるとレールガンは使えなくなる。
「光学迷彩!」
 それでも数発のミサイルが原口機に迫ってくる。
「チャフフレア!」
 いまどきのミサイルは欺瞞措置を掻い潜るのはお手の物だった。命中は避けられそうにない。
「全部右舷ブロックに当てる!」
「了解。」
 原口の神業的なマニューバーでミサイルを右舷に集中させて受けたが左舷にも被害が出た。右エンジンブロックと右主翼を失い左エンジンも出力が低下した。原口機は空中分解しながら大空にパーツをばらまいた。
「バイクメン、通信システムは生きているか?」
「駄目です。」
「じゃあ帰れない。これで終わりだな」
「いや、ここは本土の陸地の上です。味方が墜落した機体のデータを拾ってくれれば生き残れますよ。」
作品名:ユメノウツツ 作家名:中田しん