小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

ユメノウツツ

INDEX|15ページ/22ページ|

次のページ前のページ
 

F5戦闘機のマニューバーの立体映像が宙に投影された。エンジンブロックをくるくる回転させながらF5は高速飛行からの空中停止やその逆、あるいは瞬時に鋭角な旋回をしてのけた。まるでロボットが空中でダンスを踊っているようだった。原口にはそれが実写なのかCGなのか見分けがつかなかった。
「これは実写の映像です。」
「まるでUFOのようなマニューバーだな。」
「原口三佐の脳内に直接機体のデータを送ります。よろしいですか?」
「そんなことが可能…、なんだな。たのむ。」
 原口の脳内に三菱F5戦闘機の仕様データが流れ込んできた。
「ステルス性能は?」
「正面のRCSは昆虫程度です。ビジュアルステルス、いわゆる光学迷彩も可能です。ただし有効な方角は限られます。排気熱の赤外線は半減程度です。また、マルチスタティックレーダーをはじめとするカウンターステルス技術の発達によって戦闘機による戦術は二十一世紀初頭から大きく変化しました。それにも適応してもらう必要があります。」
「運用は全てVTOLが前提で滑走路は必要無しか。で、これが今の空自に築城の304空と百里の305空の二個飛行隊合計たったの24機…。虎の子だな。」
「原口三佐は304空に所属することになります。」
「私のいた201空はもう無いのか。…残念だ。」
「現在使用可能なUAVを日本中からかき集めてネットワーク化し、九州上空に飛ばしています。一方の東アジア連邦軍の航空装備データです。」
鈴木が自衛隊、在日米軍と東アジア連邦軍のデータを比較して見せた。
「圧倒的な数だな。主力はJ50が約200機か。性能もあなどれない。これが国力の差というやつか。…私は一度死んだ身だ。ゼロ戦のパイロットがイーグルに乗るようなものだが、意地を見せてやるさ。しかし、ここまでなる前に私を起こした方がよかったんじゃないか?」
「空自戦闘機パイロットの冷凍人格の解凍には内閣の防衛出動命令が必要です。」
「これだからこの国は…。」
「でも間に合います。三佐の機種転換シミュレーションは390倍速の高速演算で行われます。24時間以内にコンバットレディに入れます。」
「実機を使わずに24時間でCRか。データ人間ならではだな。すごい時代になったもんだ。ちなみに鈴木君、きみの下の名前は?」
「ありません。しいて言えば鈴木0025です。」
「そうか。悪かったな。」
「は?」鈴木は、謝られて意外だという顔をした。
 その顔は何となく滑稽な表情だった。
「もうひとつ。君から私はどう見える?」
「それは…、言葉では言い表せません。イメージをデータ転送することは出来ますが。」
「いや、それには及ばないよ。見たくない。」
「原口三佐とコンビを組むいわゆる後席を紹介します。彼は現在最高のレベル5のAIです。極めて人間に近い感情と判断力を持ち、またデジタルAIであるがゆえに反応速度はコンピュータ並みです。」
 鈴木の隣に空自の制服を着た若者が現れた。
「あ、初めまして原口三佐。竹島頼舵です。よろしくお願いします。自衛官の経験はありません。勉強中です。」
たしかに人間っぽいがこんな若造の素人で大丈夫か?
「原口だ。よろしく。TACネームはレイブンだ。普段も機上もレイブンと呼んでくれればいい。」
「たっくねーむって何ですか?」
そこから教える必要があるかー。
「あー。空自でのパイロットのあだ名みたいなもんだ。コールサインともちがうな、交信の時に使うあだ名だ。」
「じゃ、俺はバイクメンでお願いします。」
「ははははは、名前がライダだからか?まあいい。」
「高校生やってた頃の親友が付けてくれたあだ名です。何で複数形なのかわかりませんが。」
「高校生!、竹島君、君、いくつだ?」
「設定では16歳です。作られた時の年齢が12歳、それから中学に入って。」
「16!中学!何で人工知能が学校に通うんだ?体はどうした。」
「体は先進科学研究所が作ったロボット、というか有機アンドロイドというか、陸自の普通科用次世代ロボット開発のテストも兼ねていたんです。外見はほぼ人間です。学校に通ったのは人間として人間と交流することでさらに人間らしさを学ぶためです。先進型AIの研究のためだそうです。」
「そうか。そんな研究もしていたのか。私をデジタルコンバートしたのも60年前の先進科学研究所だ。ところで遠慮なく聞かせてもらうが俺達には国の虎の子のF5戦闘機が任されることになっている。16歳の高校生が大丈夫か?」
「知識としてはF5戦闘機のデータは入ってます。これからレイブンと実際の飛行訓練をすることで慣れると思います。大丈夫かということで言えばレイブンこそ大丈夫ですか?だってレイブンが乗ってた戦闘機は60年前の戦闘機でしょう?いや原型機は120年前初飛行じゃないですか。俺に言わせりゃ中世ですよ。」
「言ってくれるじゃないかバイクメン。俺の飛行訓練は厳しいぞ。」
「受けて立ちますよ。」
「頼もしいじゃないか。気に入った。」


原口はいわゆる航空機シミュレーターには乗ったことがあったが、今回のこれは全く実機そのものだった。飛行機を操るインタフェースにはすぐ慣れた。仮想空間での飛行訓練は実機と全く変わらず、空の色や雲に至るまで現実の通りで、Gまでそのままに再現してみせた。ただし体に対する影響まで再現すると過大なGに精神が耐えられないのでデジタル人間にとって実感的には実際の10分の1Gといったところで押さえられているようだ。
バイクメンこと竹島少年は勉強熱心で、急速に原口の片腕として成長していった。


「バイクメン、坂井三郎って人物、知ってるか?」訓練飛行の合間、ブリーフィングの前に原口は頼舵に尋ねてみた。
「え、検索していいですか?」デジタル人間はいつでもネットの膨大な情報にアクセスできる。
「駄目。」
「いやー、知らないです。」
「第二次大戦の時の海軍のエースパイロットだ。別名大空のサムライ。」
「へえー、どんな人ですか?」
「レシプロ戦闘機時代のエースで、日頃の鍛練を欠かさず、空戦に万全の態勢で挑み、スランプからも学習し、あらゆる空戦から生きて帰ってきた。俺の時代の空自の戦闘機パイロットでは知らない者はいない。」
「へえー。」
「俺の時代の空自では彼にならって日常生活を全て空戦に捧げて初めて実戦で生きて帰ってこれるパイロットになれると言われていた。なんたって昼間に星が見えたらしい。」
「♪目の奥で円を描き、幻を追い払え。合ってます?」
「なんだそれ。まあ空戦とはそういうストイックな世界だよ。それは誰かの歌?」
「坂本龍一ですって。俺の高校の先輩が教えてくれました。レイブンの時代の人なら知ってるかと思って。」
「音楽家の坂本龍一は名前なら知ってるよ。俺より随分年上だけどな。」


 やがて戦闘訓練は過酷を極めた。ブリーフィング、飛行、ブリーフィングの連続。AIである頼舵はともかく元々人間の原口には精神的疲労も蓄積してくる。睡眠欲は機械的にカットできるが集中力が持つかどうかは別物だ。
作品名:ユメノウツツ 作家名:中田しん