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ユメノウツツ

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「小平市に落っこちたミサイルの被害者検索してたらさ、これ森村さんの家族じゃない?」
 最初に気付いたのは部長の霧島獅子だった。
「そういえばあの子の最寄り駅、青梅街道だったっけ。ミサイルが落ちた所に近いよ。」るみなが思い出したように言った。
「それで森村さんこないのか。」当の森村みらんに告白してふられたばかりの頼舵が心配そうに言った。
「誰かケータイの番号知らないか?」
「かけてみるヨ。」
「…。」
「どう?」
「電源が切れてる。」
「んー、誰か家に行った方がいいんじゃないかナ?」
「あたし行くよ。うち近いし。今日にでも言ってくる。」


 その日学校帰りに直接国分寺から西武多摩湖線に乗った諫宮るみなは二つ目の青梅街道駅で降りた。西武多摩湖線はJR中央線のような新交通システムは導入されておらず、従来型の電車路線だ。爆発の破片が線路の高架軌道に無数に突き刺さり、強度が落ちたため、多摩湖線は青梅街道駅で折り返し運転をしていた。線路に沿った萩山通りを歩くと、ところどころにミサイルの爆発で飛んできた破片の跡がある。家のガラスが割れたり瓦が飛んだり家が半壊したりしている。
 みらんの住んでいるマンションはすぐ分かった。マンションはかしがってこそいないものの北側は無数の破片が突き刺さり建っているのがやっとといった有様だ。
 マンションの玄関はオートロックになっていて、中から開けてもらわないと入れない。
 るみなは森村と書かれた呼び鈴を押した。反応が無い。続けて押す。何度も押す。
「…はい。」
「諫宮だよ。みんな心配してるよ。開けて。」
「ごめんなさい。」
 それからるみながどう話しかけてもみらんは「ごめんなさい」しか言わず、一方的に切ってしまった。
 結局るみなはみらんに会えなかった。


美術室には陰鬱な空気が漂っていた。
「森村さん玄関あけてくれなかった。」
「やっぱ両親ともいないのか?」
「多分。」
「両親とも同時に亡くなったんじゃショックだよな。」
「んー。親戚とかいないのかナ。」
「先生に言ったほうがいいんじゃないの?」
「担任だれよ。」
「話だけしてみるけどさ。オートロック開けないんじゃ同じだよな。」
「んー。山口我夢にも知らせてやった方がいいと思うヨ。」
「うん。そうだね。あたしからあいつにメール出しとくよ。」

【るみな発我夢へ】
森村さんの両親、ミサイルの爆発で亡くなったんだって。一応知らせておこうと思って。
【我夢発るみなへ】
まじで?親戚とかいないの?
【るみな発我夢へ】
わからない。私マンションに行ったけど、開けてくれなかったし。


揚陸艦を主力とする東アジア連邦軍の大艦隊が遂に南西諸島の日本領海内に入った。 海上自衛隊と海上保安庁は通常の領海侵犯対処を自粛して、本土へ退却した。


「ネットの速報見た?ミサイル攻撃で自衛隊が200人死んだ。民間人は900人だって。」
「遂に沖縄に連邦軍が来たっていうし。」
「吉祥学園にもいつミサイルが飛んでくるかわかんないよな。」
「逃げよう!ねえ早く逃げようよ!」
「どこに!」
「北海道とかさぁ!」
「それよりデジタルコンバートだろ!」
日本国民はわれ先にデジタルの世界へ逃げようとしてシナプススキャンの申し込みが殺到、一部ではパニックの様相を呈してきた。吉祥学園に限らず、全国各地のアナログ社会で学校や会社が機能しなくなってきた。
東アジア連邦軍は、ロボット兵士を主力とする陸軍、海軍歩兵隊が遂に沖縄本島に着上陸した。自衛隊は交戦せず、各駐屯地で隊員が白旗を掲げた。東アジア連邦は戦わずして南西諸島を手に入れた。日本にとっては南西諸島で戦闘による一般人の死者が出なかったことだけが唯一の幸いだった。


 戦争の恐怖から逃れるためデジタルコンバートが進んだせいで、日本のアナログ人口は半分以下になった。吉祥学園の美術部は出席人員が三分の一程度になってしまった。
 閑散とした美術室を眺めて霧島部長は言った。
「さみしくなったなあ。」
「んー。しょうがないネ。うちも明日デジタルコンバートするヨ。」
「ういーっす。」竹島頼舵が入ってきた。その姿はいつもの制服と違う。
「あ、バイクメン。」
「バイクメンはやめろ。」
「竹島、その格好なんだ。」
「自衛隊の制服?コスプレ?」頼舵が着ていたのは航空自衛隊の制服だった。
「似合うよバイクメン」るみながはやし立てた。
「戦争だからって高校生がそれはないだろう。」
「みんなごめん。黙ってたけど、俺、自衛隊の作ったロボットなんだ。」
 あまりのことに美術室が一瞬静まり返った。
「何だってー!」
「うそだろ。」
「今日、招集された。」
「ショウシュウって何?」
「つまり戦争に行くことになった。今日はさよならを言いに来た。今まで楽しかった。」
「おいまじかよ」
「ごめん。マジです。」
「そんな、嘘でしょ!」
「お前がロボットだなんて信じないぞ。」
「連絡先のメルアドくらい教えろよ。」
「ごめん。防衛機密なんだ。」
「なんだそれ。」
「戦争に行くなら、死んだ森村さんの両親の仇をとってくれ。」
「まかせとけ。ありがとう。みんな、さようなら。」
頼舵はそれだけ言うと美術室を出て行った。残されたみんなはただぽかんとしていた。
「みんなびっくりしているところ、なんだけど。」
 霧島部長が切りだした。
「学園から通達があって。今日で部活は解散だそうだ。本日をもって吉祥学園美術部は解散する。」
がたん、と椅子をひっくり返してるみなが立ち上がった。
「んなバカな。」るみなは自分で言っておいて唖然としていた。


【るみな発我夢へ】
頼舵のことなんだけど、聞いた?あいつ、本当は人間じゃなかったんだ。自衛隊のロボットだったんだ。今日戦争に行くってみんなにさよならしに美術室に来た。
【我夢発るみなへ】
信じられない。バイクメンの連絡先とか知らない?
【るみな発我夢へ】
連絡先は防衛機密だってさ。
【我夢発るみなへ】
じゃあこっちから連絡とれないってことか。酷いな。
【るみな発我夢へ】
それと美術部が解散した。霧島部長が言ってた。


 南西諸島が東アジア連邦に占領された時には沖縄サーバの中の日本人はほぼ全員本土のサーバに避難してからっぽだった。それから連邦軍は沖縄サーバを本土から切り離し、琉球共和国サーバと名前を変え、大陸のサーバと連結した。すぐさま大陸から漢民族の大量のデジタル移民がやってきた。
 一方アナログ市民達には過酷な運命が待っていた。
連邦軍の上級士官が通達を出した。「相手は侵略者日本だ。何をやってもかまわない。われら民族の積年の恨みをこの際に晴らせ。」これは今回の戦争での最も醜い側面だった。
日本人に対する暴行、強姦が横行し、街の店の商品は全て強奪された。
那覇は、廃墟同然になった。
個人資産を没収され、一文無しになった日本人は強制的に大陸に送られ収容所に入れられた。
また、捕虜となった自衛隊員が見せしめに処刑されたという噂もあった。
 南西諸島には漢民族の支配する臨時琉球共和国政府が樹立、東アジア連邦の傘下に入った。
 それらの話はデジタルアナログ問わず日本全国に噂として広まっていった。
作品名:ユメノウツツ 作家名:中田しん