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ユメノウツツ

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 日本海にはこれあるを想定して、海上自衛隊の護衛艦ながと、むつ、やましろ、ふそうなどが展開しており、スタンダードSM11による弾道弾迎撃を実行した。日米共同開発のSM11は20世紀から続くスタンダードミサイルの最新バージョンで、高度2000キロまでの迎撃能力があり、一発のミサイルに32個のキネティック弾頭が装備されていて、各弾頭はネットワーク化されてマルチスタティックレーダーとして作用する、対ステルスミサイルだった。飽和攻撃に対抗するためにこのミサイルを各艦ありったけ放出した。
 結果、弾道弾の半数は宇宙空間でデブリと化した。
 続いて自衛隊各基地に装備されている防空隊のパトリオットPAC5と62式レールガン対空システムが火を噴き、大気圏に突入してくる弾頭を迎撃した。
 しかし、それでも撃ち漏らした数十発が市街地に着弾した。これらは全て非核弾頭だったが数百人の死者と数兆円規模の資産被害が出た。これらの弾頭の中にBC兵器やダーティーボムは無かったが、これは東アジア連邦による日本への侵略意図と無関係ではなかった。日本国民は恐怖した。


 市内の行政スピーカーが一斉に放送を始めた。
「こちらは小平市役所です。ただいま弾道弾警報が出されました。市民の皆さんは落ち着いて対処してください。」
 落ち着いて対処といっても、ミサイル相手に何をしたらいいのか。逃げる場所も無いのだ。森村みらんは途方に暮れた。両親は出かけたままだったし、双方向テレビの臨時ニュースもなんだかリアル感に乏しかった。
 突然の轟音と大地震のような震動にみらんは悲鳴を上げて脅えた。リビングの棚の上の小物がけたたましい音を立てて飛んだ。ガラスの割れる音。震動が収まり気が付くとリビングは足の踏み場も無い有様だった。
「何?」
南に面した窓から外を見ると一面砂埃が舞い上がり、それが収まると車が引っくり返っているのが見えた。双方向テレビが全国各所で弾着の模様とニュース速報を流していた。それが即座に報道フロアからの生中継になった。
「速報です。東アジア連邦からのミサイル攻撃によって首都圏では各地にミサイルが飛来着弾し、被害が出ているようです。」
 みらんは弾かれるように玄関に向かって走り、マスクをするのも忘れてドアを開けた。目の前にあるはずのスーパーエコスは跡かたも無くなり、中心は土壁のクレーターに、周辺はがれきの山になっていた。
「ああああ!」みらんは顔面を両手で押さえ、くず折れた。マンションのスーパーに面した壁面には飛んできたがれきが無数に突き刺さり、ガラスは全て割れていた。
隣近所から住人達が恐る恐る顔を出した。
やがてみらんは気が付いたように起き上がると、慌てて走り出した。「お父さん!お母さん!」家に鍵をかけるのも忘れ、エレベータに向かったがエレベータは地震モードになっていて止まっていた。階段を駆け降りる。
道路は建物の破片や引っくり返った車。その車に押しつぶされている人もいる。息をきらしてスーパーエコスの敷地に駆け込んだみらんだったが、そこにはがれきの山しかなかった。足元はアスファルトの駐車場のはずだったがアスファルトはひび割れ捲り上がり、何の物だかわからない細かい破片で足の踏み場もないほどだった。
はじめぽつりぽつりとしか動く人はいなかったがやがて野次馬でいっぱいになった。警察や消防のサイレンが聞こえてくる。
「はい下がってください!下がってください!」消防士が小型の捜索ロボットをがれきの隙間から中へ入れて人間の捜索を始めた。この時代の日本人は全て右手の甲にICタグが埋め込まれているので、レスキューの安否確認は簡単になった。
やがて野次馬たちは協力して消防隊員の指示であちこちでがれきの山を壊しにかかった。みらんもその中に入った。
何かしていないと頭がおかしくなってしまいそうだった。
時折、人間やその一部ががれきの中から運び出されてくる。それはとてもシュールな光景だった。生存者が発見されると歓声が起こる。ストレッチャーに乗せられ、運ばれていく生存者に追いすがるようにみらんはその顔を見たが、両親の顔ではなかった。スタンバイしていた救急車がサイレンを鳴らして走り出す。いつの間にか上空に報道のヘリが乱舞していた。そのころにはパワードスーツなどの重機も入って能率は良くなってきた。
みらんは、手近な消防隊員を捕まえて聞いた。
「生存者の中に森村悠馬と森村美優の名前はありますか。」
「あー、ここではわかりません。情報は署の対策センターで管理してますから。」
「じゃあ、そこへ行けば教えてくれるんですか?」
「個人で行っても情報開示はできません。生存者と死者はしかるべき時に発表されます。」
「しかるべき時っていつですか!」
「私は下っ端なのでわかりません。もう第一報は発表されているかもしれません。」
「そうですか。」
 日が暮れてきた。埃にまみれて疲れ果てたみらんは座り込んで携帯ツールでテレビを見てみた。
 地元の情報が優先的に流れるローカルテレビのワンセグチャンネルに合わせてみる。
「こちらはスーパーエコス小平店へのミサイル攻撃にて亡くなった方々が安置されている小平第六小学校体育館です。」
「六小だ!」
その小学校はみらんの出身校で、スーパーエコスからその小学校の名前の付いた通りを西へ数百メートルの位置にある。
テレビには生存者死者情報の検索ボタンもあったがそれを押す勇気はみらんにはなかった。
 立ち上がったみらんだが、小学校への足は重かった。しかし自分の目で確認しなくてはいけないという義務感だけが彼女の足を動かしていた。パン工場、タイヤ工場の社宅を右手に見ながらかつて通いなれた小学校時代の通学路を、虚ろな足取りで進むと右手に小学校が見えてくる。
 体育館の入り口まで来ると、中から悲痛な叫び声や泣き声が聞こえてくる。その声にたじろいだみらんは思わずしゃがみ込んだ。そこにいた警官が「大丈夫ですか」と駆け寄ってきた。かろうじて気を取り直したみらんは立ち上がり、気丈に尋ねた。
「森村悠馬と森村美優の娘です。私の両親はここにいますか?」
「ちょっと待ってください。」
 警官はツールを操作して検索すると答えはすぐに出た。
「お嬢さん。…中へどうぞ。気を確かに。」
民生委員のボランティアに促されて体育館に入る。線香の匂いがする。棺が並んでいる。
 棺にはそれぞれ名前が書かれていた。死体の名前はICタグですぐわかる。
 森村悠馬と書かれた棺の蓋を開けると顔が無かった。埃にまみれた右手首しか無かった。腕や胴体は爆発でどこかへ吹き飛んでしまったのだろう。母の名前の棺も似たようなものだった。ついさっきまで元気に話していた両親が変わり果てた姿で、しかも体の一部しか残らなかったとは。
 みらんは、あまりのことに涙も出ず呆然とその場に立ち尽くした。


 ついに東アジア連邦によって日本の国土に実害が及んだことについて、日本では各メディアが自衛隊の能力不足を糾弾した。一方で東アジア連邦許すまじという論調は一部にとどまった。   
日本政府は国民に平静を保つよう呼びかけた。
吉祥寺の吉祥学園美術部では近くに落ちたミサイルの話でもちきりだった。
作品名:ユメノウツツ 作家名:中田しん