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パンダのジョー

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 パンダが喋った。喋れるのか?パンダが立ち上がり握った拳を医師の方へ伸ばした。医師は昔見た映画で約束の時にこんな風にする風習を思い出した。
医師も立ち上がり右手を握り、パンダの拳に合わせた。種族を超えた男同士の約束であった。
 そして医師は傍らのジュラルミンケースを拾い上げ、パンダに託した。この中には特効薬が入っている。パンダは特効薬を受け取った。
「男って、いいわね。」美女がつぶやいた。


 かろうじて舗装されている国道は都会を抜けると早速炎天下の砂漠にさしかかる。行く手に蜃気楼が見える。水色の軽トラックのエンジンは快調とは言い難い。軽トラの小さな車体にパンダの丸い体を無理やり押し込んでハンドルを握る。それだけ見ればパンダと軽トラという取り合わせはファニーな光景ではある。
 この軽トラは赤いドレスの美女が手配してくれたものだ。
「ごめんなさい、本当はもっと大きなクルマの方が良かったのだけど。」
 そう言って美女はパンダに詫びた。
「いいってことよ。歩いてでも、這ってでも行くつもりだ。クルマとはありがたい。」
 パンダはにや、と笑ってそう答えたものだ。
 パンダが煙草を吹かす。開けはなった窓から煙が吸い出されていく。
 と、バックミラーに巨大なトレーラーが映ったと思うとみるみるうちに追いついてきた。
馬力が全然違うのだろう、ホーンをぱーぱー鳴らして強引にパンダの軽トラを追い抜いてゆく。開いた窓からトレーラーがけちらした砂埃とトレーラーが排気した黒煙が朦々と入ってくる。
 だが悠々と構えたパンダは気にしない。
 やがて行く手に小さなドライブインが現れた。
「腹ごしらえでもするか。」パンダは軽トラをドライブインの駐車場に放り込んだ。助手席のジュラルミンケースを下げて、パンダは軽トラを降りた。
 両開きのウエスタンドアを入ると、店内はオールドアメリカンな造りだ。
駐車場に他のクルマが停まっていなかったのでドライブインの客は自分だけらしい。カウンターの奥には腹の出たヒゲの親父がテンガロンハットをかぶっている。
「いらっしゃい。おや、パンダとはこりゃ珍しいな。」
 親父はがっはっは、と豪快に笑った。
パンダはカウンターにつくとジュラルミンケースを隣の椅子に置きながら、
「親父、食事はできるか。」と問うた。
親父は、「笹は無いぜ。」と答えた。
「笹はいらねえ。肉をくれ。」


腹ごしらえなったパンダは、煙草を吹かしながら軽トラを運転していた。日差しは強烈。地平線まで続く道路にはもやもやした蜃気楼が見える。辺りは天辺が平らな、崖が垂直に近い岩山が連なっている。対向車もほとんど見ない。
軽トラのエンジンが咳き込む。エキゾーストから黒煙が断片的に吐き出している。エンジンの震動が激しく不安定になってゆく。
パンダは眉をしかめ、アクセルを緩めてみた。それでもエンジンの不調は直らず、震動も黒煙も酷くなるばかりだ。
やがて、耳障りな金属が破壊されるような音がしたかと思うと爆発音とともにボンネットから大量の煙を吐き、軽トラのエンジンは止まってしまった。
パンダは「ちっ」と舌打ちするとクルマを降り、ボンネットを開けた。エンジンから黒煙が朦々と吹き出している。辺りに焼け焦げたいやな臭いが広がる。
「このポンコツ野郎、イカレやがった。」
ふと見回すと、大型の動物の骨が朽ちている。
「やれやれ、縁起でもねえぜ。」
 煙草を投げ捨ててひとり愚痴たパンダは、助手席からジュラルミンケースを取りだし、やがて砂漠の国道を歩き始めた。
照りつける日差しの中、パンダは黙々と歩き続ける。車一台も通らない。
やがて日がかげり、岩山の影が道路にのびる。それでも黙々とパンダは歩き続ける。
 真っ赤な夕日が砂漠を赤く照らし、歩き続けるパンダも夕日に照らされて赤い。
 そして夜になり、雲一つ無い満天の星空を見上げ、ひたすら歩く。
 どれくらい歩いたろうか。空に天の川が見える。真っ黒な岩山のシルエットが月明かりに浮かび上がる。
荒れ果てた風景がパンダには良く似合う。
 その時、パンダの行く手にちらちらと光が弾けるのが見えた。星ではない。やがてその光の点は5つ、6つと増え、列を作り、爆音とともにパンダの方へ近づいてきた。
 ある距離にまでゆっくりと近づいたかと思うと、そこから猛烈なスピードでパンダの眼前まで矢のようにやってきた。それが大型バイクの群れだ、と分かった瞬間爆音と風圧がパンダを襲った。すれ違い、パンダは何事も無かったかのように歩き続けたがバイクの群れはUターンしてパンダに追いすがってきた。
 バイクの群れのライダーはみなカンガルーで、ノーヘル、サングラスに、トゲトゲのついた黒い革ジャンを着ている。
 暴走族の群れはスローダウンしてパンダにまとわりついた。
先頭の一匹がパンダを舐め回すようにじろじろ眺め、声をかけた。
「ほっほー!こんなところにパンダちゃんがおるやないか!」
 なぜ関西弁なのか、と問うたところで意味は無い。
「子供のアイドルのパンダは動物園にお帰りなはれ!でないといぢめちゃうぜ!」
後続のカンガルー達が奇声を発しながらパンダの周りをぐるぐる回る。バイクの爆音が岩山にこだまする。
パンダは顎を引き、じろとカンガルー達を睨んだ。
「鬱陶しい。俺は急いでるんだ。目障りだ。失せろ。」
 見た目ファンシーなパンダがビビっているかと思いきや、意外な言葉に一瞬カンガルーの群れは戸惑った。しかしそれが集団でのヒステリックな怒りに転化するのに時間はかからなかった。
「なんだとお!」
「パンダのくせに生意気や!いてまえ!」
 逆上したカンガルー達は一斉にバイクを加速させ、パンダの前方約100メートルほど距離を取ったかと思うとまたUターンしてパンダに迫ってきた。
 手に手に鉄の棒をふりかざし、奇声を発しながらすれ違いざまパンダを棒で叩きつけようとする。
 パンダの目がぎらっと光ると、ジュラルミンケースを真上に放り投げた。
 カンガルー軍団が襲いかかってくる。殴りつける鉄の棒をパンダは左肘で受け、強烈な右ストレートを繰り出すとカンガルーが吹っ飛ぶ。次のカンガルーの鉄棒を受け止め、回し蹴り。強烈なパンチとキックで次々にカンガルー軍団をやっつけてしまうパンダ。圧倒的に強い!こいつはパンダじゃない、鬼だ!
 最後にやってきたリーダー格カンガルーを強烈なラリアットでぶちのめし、パンダは落ちてきたジュラルミンケースをキャッチした。
 辺りは倒れたカンガルー達と転倒したバイク。パンダは息を荒げることもなく、涼しい顔だ。
 カンガルー達のうめきが聞こえる。
「痛てえ、痛てえよお。」
 転倒したハーレーの傍で呻いているリーダー格カンガルーに歩み寄り、パンダはじろっと睨み下した。
「ひ、ひいぃい、ど、どうか命だけは…。」
パンダはリーダー格カンガルーの胸倉をつかみ、にやりと哂った。
「いいバイクだな。」

作品名:パンダのジョー 作家名:中田しん