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野琴 海生奈
野琴 海生奈
novelistID. 233
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~双晶麗月~ 【その1】

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──フィルの血が、真っ赤な花びらになってしまった。ついさっきまで護ってくれていたフィル。ほんのささいなことでも、護ってくれているという感じが、私を心地よくしてくれていた。街灯に照らされたフィルの花びらは、たくさん流れた血の証──

 私は、運よくフェンスのないその家の敷地に入り、静かに花びらを集めた。まるで今まで過ごした日々の数だけあるような、そんな花びらの数。それを一枚一枚広い集める。フィルと過ごした記憶のかけらを一つ一つ集めるような、そんな気持ちだった。

 道路のアスファルトに、落ちる涙が浸み込んでゆく。溢れる涙で、花びらが見えない。
 手に取った花びらを見つめても、ぼやけて見えない。
 私の目からは次々と涙が溢れ、花びらを掴む手は微かに震えた。
 
【もう、ここにフィルはいないんだ………】

 そう思っていると、背後にバサリと翼の音がした。そして泣きながら花びらを集める私に影を作った。私は男にバレないように、流れていた涙を袖で拭った。

 男は何も言わず、花びらを集める私をずっと見ていた。
 私は必死に涙を堪えた。


 しばらくすると、さっきまでの冷たい声色とは違う、静かな声で男は言った。
「……女の涙は僕がもっとも嫌いとするものです。涙は女の武器とか言うそうですが、言語道断ですね」
 その言葉に私はカチンときて、その場にしゃがんだまま振り向き男を睨みつけ、カバンを勢いよく投げつけた。男の胸元にカバンが当たり、道路に落ちる。
 なぜか男は避けなかった。ヤツなら避けられそうなものを。

 私は男の顔をさらに睨みつける。だが、私は少し驚いた。
 静かにうつむいたまま何の抵抗もしないその男の顔を見上げると、冷たいブルーだった瞳が淡いグレーになっていたからだ。

「僕の名前はミシェル・ニズ・フォルスト。覚えておいてください」
 沈黙の後やっと口を開いたその男は、私の目を見ずそう言って、さっき拾った私の本と、キッチリ畳まれた大判の白いハンカチを私の足元に置いた。
 そして男はバサリと音を立て、うつむいたまま空へ飛び立った。

『ミシェル・ニズ・フォルスト…フィルを殺した男……』
 私は男が飛び立った方向にある満月をしばらく見上げていた。涙が乾くまで……