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野琴 海生奈
野琴 海生奈
novelistID. 233
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~双晶麗月~ 【その1】

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「ナース……トレンド……?」
 その名前を聞いた私は、白い壁の血を見つめる。
【確か北欧神話に出てくる死者の国…じゃなかったっけ……】
 私は、心の中で呟いていた。
「そうです。死者の国です。帰るべき場所に帰ったのですよ」
 男は私にそう告げる。
 私は不審に思い、もう一度男の姿を確認する。男の背中には間違いなく黒い翼がある。

【ナーストレンドでニズホッグが死者の血をすすると、狼が死者の体を裂く……?】
 私が心で呟いていると、無表情だった男は一瞬眉をしかめた。
「そんなハナシ、よく知ってますね?……あぁ……この本読んでるからですか?」
 冷めた口調で言うその男は、私の足元に落ちていた北欧神話の本を拾った。

 この時はまだ、私の脳内で思った言葉が、そのまま男に通じていて会話が成り立っていることに気付きもしなかった。

【そこがフィルの帰る場所?フィルが、死者の国で男たちの体を裂く狼?
 ずっと私を護ってくれていたフィルが、そんな残酷なことをするのだろうか?
 フィルは……私の目の前で殺されてしまった……ずっと私を護ってくれていたのに……】

 私はフィルの血を呆然と見つめ、頭の中でグルグルと考えていた。

【あんな風に簡単に壁に打ち付けられて…あんな風に…殺されて…で、どこに帰るって?あんなに血が飛び散っているのに…なんて…残酷な……】

「あれが気になりますか」
 男は、飛び散っているフィルの血を、先ほど拾った私の本で指差し、さらりと言った。

 端正な顔立ちに、冷たいブルーの大きな目をしたその男は、無表情のままだ。その言葉は何の感情もないかのようで、それが挑発的にも感じた。

 私の中の激しい感情が一気に吹き上げる。だが私はまだそれを必死に堪えていた。

 どうしようもない悲しみと、どうしようもない怒りと……
 現実を受け止められない気持ちと……。
 行き場のないたくさんの気持ちが、込み上げてきて仕方なかった。