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野琴 海生奈
野琴 海生奈
novelistID. 233
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~双晶麗月~ 【その1】

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 雲もなく薄青い空。家々の屋根の隙間には白い満月が見える。太陽はうっすらと光を残し、沈んでいる。交差点の向こうの道沿いに並ぶ2階建ての家々は、道に長い影を作る。
 そして、その影の中に人がいる。

【あの人…光ってる?】
 変だなと思って見ていると、右肩から右腕全体がピリピリと痛みが走る。特に痣のある右肩辺りが……

 その後、フィルは私をかばうように私の前に立ち、鋭い目で睨(にら)みながら低い態勢で唸(うな)る。そのままフィルがその光の方へジリジリと歩いて行くと、その人もまたこちらに向かい、ゆっくりと音もなく歩き始めた。
 私の10メートル手前くらいまで来た時だった。フィルがその人のすぐ前を立ちはだかり、今にも喰らい付きそうなほどの唸り声を上げる。

「フィル!」
 私は痛み出した右腕を押さえ、フィルを止めようとした。そしてこちらに向かって来る人が何であるか目を凝らした。

 男だ。

 おそらく180センチは超えていそうな長身で、スラリとした細身の体、全身黒の服、長めのショートウェーブの黒髪、見た感じ25才前後ってとこか。
 その背中辺りに何か黒っぽいものがある。私はその背後をまじまじと見た。

 私はぎょっとして本を落としてしまった。
 そう、その男の背後にあったのは、うっすらとダークグリーンに光る黒い羽根の翼……

 そして、その本を落とした音は、フィルへの引き金となった。

「フィル!待て…!」

 それからはまるでスローモーションのようだった。

 白い羽根を羽ばたかせ、駆け上がるようにそれに向かっていくフィル。
 大きく口を開けたフィルが男の腕のすぐ近くまで飛ぶと、男は瞬間的に体を左に避け、右腕を横に軽く振った。その腕はフィルの銀色の体に当たり、フィルの体はぐにゃりと曲がる。そのフィルの口から飛び散るのは、大量の真っ赤な血。
 そして、男が振ったその腕からフィルの体は離れていき、その男の背後50メートルほど先にある、二階建ての家の白い壁に激しく打ち付けらた。フェンスのないその家の敷地内にフィルはズルリと落ち、地面に届くと同時にフィルの姿は霧のように形を変え、消えてしまった。
 残されたのは、白い壁を真っ赤に染めたフィルの血のみ。

 私は一瞬にしてあまりの出来事に手も足も動かなかった。白い壁に飛び散る血を見つめ、呆然と立ち尽くした。