~双晶麗月~ 【その1】
◆第1章 嘲笑する虐殺者◆
私は海藤咲夜(かいどうさくや)。中学卒業間近の15才。
おチビで、しかも女らしくするのが苦手。でも肩の下辺りまで伸びるストレートの黒髪が唯一の自慢。
勉強は得意じゃないけど、本を読むのは大好き。特に北欧神話の本。その本を持ち歩いて、暇さえあれば読んでいる。かと言って運動音痴ではない。足は丈夫なようで、マラソン大会では大抵5本の指に入るほどだ。
そんな私は幼い頃から別の次元のものの存在を時々感じたりする。その中で、私を護ってくれているであろうものの存在も感じていた。
それは、私がいつも[フィル]と呼んでいる守護獣のフィルグスだった。
ライオンのような鬣(たてがみ)を持ち、白鳥のような白い翼をつけた白銀の狼で、透き通るような鋭い青い目をしている。サイズは大型犬くらいだろうか。
そもそも私が北欧神話に興味を持ったのも、この守護獣フィルグスが、北欧神話に出てくる守護獣フィルギャと何か深い関わりがあるかもしれないと思ったからだった。
私は時折感じるその守護獣を、とても大切にしていた。どこに行くにも、何があってもいつも私のそばにいる。それが私にとっての幸せであり、絶大な安心感でもあった。
そんな時、私はアイツに出会ってしまった。
2月半ばの冷たい風が吹く夕方。もうすぐ中学も卒業で、私は少し浮かれていた。下校途中、重いカバンを左の脇に抱え、鼻歌まじりに大好きな北欧神話の本を読みながら歩いていた。大通りの側道を右に曲がって、ゆるい坂を上る。しばらくした所で、突然後ろから私のスカートをフィルが引っ張る。
「フィル?どうした?」
立ち止まり顔を上げると、人通りの少ない住宅街、少し先にある交差点の向こうに、ぼんやりと人影が見えた。だが周りにはそれ以外特別気に留めるようなものはない。
その時やっと辺りが薄暗くなっていたことに私は気付いた。いつものごとく、またしても夢中になって本を読んでいたらしい。そこで私は本を閉じたが、フィルは何かに警戒してか、私の背後で唸り声を出していた。私は不審に思い、もう一度辺りを見渡してみた。
作品名:~双晶麗月~ 【その1】 作家名:野琴 海生奈