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野琴 海生奈
野琴 海生奈
novelistID. 233
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~双晶麗月~ 【その1】

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「遅くなりました」
 長めのショートウェーブの黒髪、スラリと細身の背の高いその男は、ベンチの背もたれに捕まりしゃがみこんでいた私に軽く頭を下げ、右手を差し出す。[あの時]と同じような黒尽くめの服。そして[あの時]と同じ白い満月が辺りを照らす。背中には発光する黒い翼。

「な……なんなんだよ!何しに来たんだ!」

 我に返った私は恐怖心を打ち消すように、差し出されたその手を払いのけ、すぐに立ち上がった。すると、雨も降らないのに濡れているその公園の中央辺りに、大量の赤い花びらが落ちているのが視界に入る。

 私は全身の血が凍りつくような気がした。そして、あの時開いたページを思い出す。

[ニズホッグ。世界樹の根の一つを齧(かじ)り、氷の世界を護る蛇。終末の日には翼に死者を乗せて飛ぶ黒き龍となる。『嘲笑(ちょうしょう)する残虐者』の異名を持つ]

 まさか…!こいつがニズホッグ?

「女の涙は嫌いですからね」
 そう言ったその男は、以前の冷酷残忍な雰囲気ではない。その優しく穏やかな声に私は躊躇(ちゅうちょ)した。波打つ髪を揺らしながら、頭を上げた男の目は、淡いグレーになっていた。

 これがあの時フィルを殺した男?
 あの時の冷酷な雰囲気など微塵(みじん)もない。もっと柔らかな……

 雄吾よりも高い位置から、男は優しく穏やかに話を続けた。
「その右腕、痛みませんか?」
 私はすぐに返事ができずにいた。