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野琴 海生奈
野琴 海生奈
novelistID. 233
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~双晶麗月~ 【その1】

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 そのままひと気のない広い公園まで走ると、私は息を飲み、痛む右腕を押さえ、急いで公園の中に入る。全速力で走ったからか、息が苦しい。薄暗い中公園内を見渡すと、テニスやバスケができるようにラインが引いてあった。公園のふちには所々木が植えてある。

 私は意を決し、公園奥辺りまで入り、くるりと振り返った。追いかけてきていたその巨大な気配は、腰ほどの高さのフェンスを軽く跨ぎ、私の目の前まで来た。そして立ち止まり、白い息を吐いた。

 私は恐怖心をかき消すように叫んだ。
「おまえ!何の用だ!私を喰らうつもりか!」
 その気配は、今にも飛び掛ってきそうなほど鋭い目でこちらを睨んでいるのが分かる。私は恐怖心を抑えるのに必死だった。
 そんな中よく見てみると、それは黒っぽい狼のようだった。だが普通の狼よりも毛が長め。そしてこちらを睨む血のように赤い目と、その上に立つ尖った耳。私は雄吾の姉さんが見た[狼のような犬]のことを思い出した。それと同時に、北欧神話に出てくる魔物の一つが頭に浮かぶ。

「何のためにここへ来た!おまえは何者だ!」
 その問いに、巨大狼は微かに口を開いた。
【咲夜……その右腕、痛むか?ふはは!我らに全てを捧げればその痛みも消えように】
 頭の中にそのしゃがれた声は響いた。
「?なんで私の名前知ってる!おまえ、何者なんだよ!」
【我か?……我はフェンリルの末裔………】
「フェンリル……!」

 その瞬間だった。巨大狼は体を低くしたと思ったら、鋭く赤く光る目をギラギラさせ、大きく口を開けた。そしてそのままこちらに飛び掛ってくる。

【もうダメだ……!】
 そう思い、咄嗟(とっさ)に目を閉じた。