~双晶麗月~ 【その1】
「……てかさ、なんでその人のこと、私の兄貴って思ったんだろね?あんたの姉さん」
「いや、実はさ〜、……あ、姉貴にチクるなよ!言うなって言われてんだから!」
「なんなの?」
「うん、実はさ、オマエんちから[兄貴]が出てくるのを姉貴が見たらしいんだよ〜!あんまりイケメンだったから、つい見入っちゃったとかなんとか言ってよォ」
うちから兄貴が出てくるわけない。私一人でこっちに来たんだから。だいたい引っ越してすぐにしょっちゅう来てたうちの過保護な親も、あんま来るから『もう二度と来るな』ってこないだケンカしたばっかだし、あの不精な兄貴だって来るはずないんだよね。
話しているうちに、雄吾は興奮し始めた。私は平静を装い耳を傾ける。
「そしたらよォ!その兄貴がにっこり笑って頭下げてきたらしくて!んで、姉貴も慌てて頭下げてさ〜。でさ〜…あ!こっからはマジで!絶対言うなよ!」
「ふん。あとつけたとかって言うなよ?」
「アッハッハ!そうなんだよ!途中で時々撒かれたらしいんだけどよォ、でもなんとかその兄貴の後をつけたらしいんだよ!アッハッハッハ!」
「アッハッハじゃねぇよ」
私は冷たくツッコミを入れた。
「あ、絶対言うなよ!頼むぜ?姉貴にバレたら大変なことになる〜っ!」
「いいよ言わないから」
てか、……言えねぇよ、そんなこと。
私はそのまま静かに波打つその海を眺めながら、自宅方向へと歩き始めた。
頭の中では、ずっとその[兄貴]のことを考えていた。
兄貴ではない[兄貴]のことを……
すると、雄吾は思いもかけないことを言った。
「まさかさ、その兄貴、ホントの兄貴じゃなかったりして〜?アッハッハ!」
私は驚いて立ち止まった。
作品名:~双晶麗月~ 【その1】 作家名:野琴 海生奈