~双晶麗月~ 【その1】
そして、私は雄吾に探りを入れることに決めた。
「兄貴が音楽事務所ねぇ…。確かこないだはペットショップで働いてるって聞いたけど」
「そうそう、音楽事務所に入ってく時狼みたいな犬連れてたってさ。犬飼ってんのか?」
「狼みたいな犬〜!?飼ってないけど……。ハスキー犬とかだった?」
「いや、ハスキーじゃねぇんだと。もっとデカいらしいぜ?」
私は益々おかしいと思った。
「それで?その犬どうしたの?」
「知らね。犬の聴覚でも調べたかったんじゃねぇの?あの事務所、音の研究とかしてるらしいし」
「音の研究?で、犬の聴覚?」
「あ、これ俺の想像ね。ハハハ!」
「ふ〜ん…[狼みたいな犬]の[聴覚]を調べに……か」
雄吾の想像が、ただの想像だといいが……
私は『狼のような犬』と聞いて、真っ先にフィルを思い出したのだが、なにか、フィルとは関係のない何かのような気がした。
そして、その[兄貴]は何者なのか……
「あのさ、その[兄貴]って、どういうカンジだった?」
「オレより背が高そうだったって姉貴は言ってたけど」
私の兄貴は私と同じで背はあまり高くない。180センチある雄吾より大きい兄貴?
違う。それが兄貴なわけがない。
私は嫌な予感がした。
「髪型とか、見た目どんなんだったって?」
「確か、スラッとしてて細身で、髪の毛が軽くうねうねしてて、結構イケメンって言ってたけど?ちょっと日本人離れした顔立ちでよォ、『私のタイプだから絶対忘れない!』とかなんとか姉貴が言ってたぜ、へへっ」
それを聞いてすぐに思い浮かんだのは、あの冷血残忍男、ミシェルだった。
私はとてつもない胸騒ぎを感じた。
作品名:~双晶麗月~ 【その1】 作家名:野琴 海生奈