~双晶麗月~ 【その1】
「これってさ、バラっぽくね?ここにバラなんてないだろ?なんでだと思う?」
雄吾は道路と空き地の境目辺りで頬杖をつき、推理し始めた。
私は答えに詰まった。
「う?ん……あ、じゃあ誰かがプレゼントに赤いバラの花束貰ったけど、『やっぱいらな〜い』ってそこらに散らばしたとか〜!」
「嫌いなやつに貰ったってか?」
「そうそうそう!絶対そうだよ〜!」
私は白々しい作り話をしながら、頭の中でぐるぐると考えていた。
『嫌いなやつ』?
雄吾の言った言葉を聞き、思わず頭の中に、あの冷血残忍男が浮かんだ。
私はあれから半年経った今でも、フィルの花びらとヤツの黒い羽根を持っている。私の右肩にある痣と同じ紋様の入った白いハンカチと共に。
「そうそう、超大嫌いなやつに貰ったから捨てたんだよ」
海を見ながら私はつぶやき、その場から逃げるように坂道を下りて行った。
ミシェルがこの街に来ている。そしてまた何ものかが消されている……?
私はポケットに手を入れ、あの忌まわしき白いハンカチを握りしめた。
作品名:~双晶麗月~ 【その1】 作家名:野琴 海生奈