~双晶麗月~ 【その1】
◆第2章 近付く足音◆
フィルが消されてから数日後。私は職員室に呼び出され、突然告げられた。
「海藤!やったな!宇美塚高校へ入れるぞ!」
あと1週間で卒業式だというのに、数ヶ月前試験で落ちたはずの第一志望の高校に入学することとなった。先生の話では、空きができたからだと言うけど…確か私は補欠にも入ってなかったはず。一瞬変だと思ったが、きっと死んだフィルが導いてくれたのだろうと勝手に思っていた。
それからめでたく卒業式を迎え、第一志望だった宇美塚高校へ入学した。
そしてフィルが消されてから半年後の8月半ば。
元々住んでいた所から車で30分ほどの所にある住宅街で、私は一人暮らしをしていた。第一志望の高校への入学が決まると同時に、『今空いているから使ってくれ』と両親の知人がタイミングよく言ってきたらしい。
2階建ての一軒家に、私一人で住むにはちょっと広すぎるし、電車でなら十分通える距離だと思ったのだが……。
その住宅街は、海の見える丘の上にある。そこから歩いて15分前後の所にある高校への道のりは、見渡す限りに広がる青い海を正面に見据え、その丘を下っていく。そして緑に茂る街路樹の隙間から光る太陽が、キラキラと道路を照らす。
坂はキツイけど景色は凄くいい。私はこの街の景色が大好きだ。私がここの高校を第一志望に選んだのも、ずっとこの景色を見たかったからだった。
───「どうだ、綺麗だろう?」
私が小さい頃、空も真っ暗になった時間に、両親が連れてきてくれた。
広い広いその海に映る月は、ゆらゆらと輝きとても綺麗だった。私は、海沿いを走る帰りの車中でも、その光景が見えなくなるまでずっとずっと眺めていた。
今でもあの景色は忘れない───
私が一人暮らしすることになったこの家も、丘の上にあるだけあって、南に面した2階の部屋の窓から海がよく見える。1階からは周りの家が邪魔をしてほとんど見えなくなるが、私の寝室を2階にしたから、まぁいいとしよう。
『きっとフィルがここへ導いてくれたんだ。これからは一人で強く生きていく!』
ここへ引っ越してすぐに、開け放した2階の窓からこの景色を見て決意を固めた。
この時はまだ、この突然の出来事の全ては、フィルのおかげなんだと思っていた。
作品名:~双晶麗月~ 【その1】 作家名:野琴 海生奈