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漢字一文字の旅  二巻  第一章より

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十の六  【菜】



【菜】、元の字の意味は手で木の実を摘み取ることだとか。
そんな【菜】で、すぐに思い付くのが「菜の花」。

菜の花や 月は東に 日は西に
与謝蕪村は270年ほど前にこう詠んだ。
菜の花は晩春の季語であり、おぼろ月が東に上がった夕暮れ時の情景だろう。

そしてそこから連想するのが「菜種油」。
セイヨウアブラナから採取される食用油。かっては灯火としても使われていた。

こんな植物油、世界の生産量は次のような順位になっている。
1位 パーム油
2位 大豆油
3位 菜種油
4位 ひまわり油

菜種油は堂々の第3位。
その菜種油の6割が日本で作られているとか。
春ともなれば、いかに菜の花が黄一色で日本中に咲いているかということだ。

そして菜の花は、お浸しに和え物、炒め物に汁物と食して美味しい。
食卓の一品、春の旬の味だ。
菜の花は日本の暮らしになくてはならない。

そして唱歌の朧月夜。

【菜】の花畠に 入日薄れ
見わたす山の端(は) 霞ふかし
春風そよふく 空を見れば
夕月かかりて にほひ淡し

【菜】という漢字、こうして日本人の心まで癒やしてくれている。