漢字一文字の旅 二巻 第一章より
ここでその物語を振り返ってみよう。
師走、江戸の火事で八百屋八兵衛一家は焼けだされた。
避難先の駒込吉祥寺で、娘のお七は小姓、吉三郎の刺を抜いてやる。
これが縁で二人は良い仲に。
時は移り、正月十五日、雪降る夜だった。
僧たちは葬儀に出掛け留守、お七は吉三郎の部屋に忍び込む。
お七は十六歳、吉三郎も十六歳、若くて初々しい二人ではあったがここに男女の仲、契る。
だが、お七は翌朝母に引き戻され、そして完成した新宅へと移る。
その後会えなくなった二人、しかしある雪の日、吉三郎が土筆売りに変装し八百屋を訪ねてくる。
そして雪で帰れぬと、土間で泊まることに。
お七は男が吉三郎だと気付いて、自分の部屋へと隠す。
その夜、隣室の両親に気付かれないように、筆談しながら恋を実らせる。
しかし、その後、二人はなかなか会えない。
お七はしのび苦しみ、家が火事になればまた吉三郎がいる寺に行け、会えると考え、火を付ける。
ここはぼやで済んだ。
だが、お七は捕まえられて市中引き回し、その上に火あぶりの刑となる。
このとき吉三郎は病で寝込んでいた。この出来事を知らない。
お七の死後百日が経った。
吉三郎は治癒して、塔婆にお七の名を見つける。
驚き哀しみ、そして自害しようと。
しかし吉三郎は説得され、出家する。
その後は生涯、お七の霊を供養する。
以上が「八百屋お七」として誰でも知る話しだ。
だが、井原西鶴はそのタイトルを…『恋草からげし八百屋物語』と付けていた。
つまり「恋草の消し炭のような八百屋の物語」だと。
まことに切ない話しだが、井原西鶴はこれで一体何を言いたかったのだろうか?
その「消し炭」と言わせた真意を知りたくなる。
とにかく【七】も【五】も【八】も、漢数字に絡んだ物語。
そのいきさつが気に掛かるのだ。
作品名:漢字一文字の旅 二巻 第一章より 作家名:鮎風 遊