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漢字一文字の旅  二巻  第一章より

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七の四  【珠】



【珠】は(シュ)と読み、「朱」には丸いもの、朱色の意味がある。いわゆる輝く珠玉だ。

そんな【珠】の女性、明智珠(あけち たま)がいた。
珠は永禄六年(1563年)、明智光秀の三女として生まれる。
そして戦国時代を強く、しかし辛く生きる。

十五歳の時に、主君・織田信長のすすめにより細川忠興(ただおき)に嫁ぐ。珠は美人であり、忠興とは仲のよい夫婦となる。

しかし、父の明智光秀は本能寺の変、つまり謀反を起こした。
これで光秀は秀吉に追われ、小栗栖(おぐるす)の地で竹槍で討ち取られる。
これで珠は逆臣の娘となってしまう。

忠興は珠の身を案じ、丹後半島の味土野(みどの)の山中にかくまう。
いわゆる幽閉させたのだ。
珠はここで一年半ほど暮らす。だが世は動き、覇権を握った羽柴秀吉は珠を呼び戻す。

そんなある日、珠は忠興からカトリックの話しを聞く。
これに心が惹かれた珠は救いを求め、教会に通いを始める。そして信仰を深め、やっとのことで自宅で洗礼を受ける。
この洗礼名がガラシャ。
ラテン語で神の恵みの意味がある。

時は慶長五年(1600年)、関ヶ原の戦いが勃発する直前のことだった。
忠興は徳川方となり、上杉討伐のため不在。そんな隙を狙って、西軍の石田三成はガラシャを人質に取ろうとする。
しかし、ガラシャはこれを拒んだ。

これに三成は屋敷を兵で囲み、実力行使に及んだ。
ガラシャは覚悟を決めた。
カトリックでは自害は禁止されているため、部屋の外から家老に槍で胸を貫かせた。
珠はこんな壮絶な死を選んだのだ。

ちりぬべき 時知りてこそ 世の中の 花も花なれ 人も人なれ
細川ガラシャは死を前にして、このように詠んだ。

こんな【珠】は、今も重く輝き続けているのだ。