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漢字一文字の旅  二巻  第一章より

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七の一  【断】



【断】、左の部は織機で糸を断ち切ってる形であり、右の斤はその糸を切った「斤」(おの)だとか。

「断機の戒め」という言葉がある。
孟子が学問半ばで家に帰ってきた。その時、母は織っていた糸を断ち切って、途中で投げ出せば織物は出来ないと戒めた。

日本にもこのような「断機の戒め」がある。
京都の川島織物という会社。
第一次世界大戦中、明治宮殿に納める壁掛け「春郊鷹狩」を織っていた。
原画は澤部清五郎の逸品。
しかし時代背景もあり、染料の品質が悪かった。出来映えは素人が気付くことはないが、微妙に色合いが違う。

このような壁掛けを納入すべきか、三代目川島甚兵衛の妻、絹子は悩んだ。
そして苦渋の思いの中で腹を決めた。
その織物を裁断してしまったのだ。
翌日、宮内庁に出向き、不良染料を使ったことを謝った。
それから初心に戻り、良い染料を調達し、織機も新しい機械にして、二年後に素晴らしい壁掛けを納入した。

絹子によって裁断された織物、それは「ものづくり」の原点、良い物を作るためには決して妥協を許すな、こんな思いを後進に伝えている。
つまり「断機の戒め」として、今も会社に残されているのだ。

話題は変わるが、【断】という漢字に「油断大敵」という言葉がある。

最澄は比叡山に天台宗を開いた。
そしてそこに千二百年以上灯り続けている「不滅の法灯」がある。
最澄はこの灯りに、
「明(あき)らけく 後(のち)の仏の 御世(みよ)までも 光りつたへよ 法のともしび」と願いを込めた。

この灯火は菜種油であり、それ以降僧侶たちは一日たりとも油を断つことなく現在まで注ぎ続けてきた。
これが四字熟語で言われる「油断大敵」なのだ。

【断】という漢字、事ほど左様に、いろいろと戒めてくれている。