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漢字一文字の旅  二巻  第一章より

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1809年 近江国犬上郡多賀町に生まれる。(巳年)
1815年 六つ年下の長野主膳と井伊直弼が生まれる。

たか女・十七歳は、直弼の兄・直亮の侍女となる。
そして二十一歳の時に、京都祇園の花柳界にデビュー。
その後金閣寺の僧に囲われるが、寺侍・多田一郎と結婚し、多田帯刀(たくわき)を産む。そして離縁。

1834年 たか女・二十五才は彦根藩に戻る。
1839年 埋木舎で悶々と暮らす直弼・二十四歳とたか女・三十歳は相通じるようになる。

1842年 伊勢国から流れてきた長野主膳は国学塾を開く。
そしてたか女と長野は出会う。
さらに11月20日、たか女は直弼に長野を紹介し、ここに三人がまるで導かれた三つ星のように出会う。

1844年5月 たか女・三十五歳は長野・二十九才に誘われ、琵琶湖湖畔の宿にいた。熱く抱かれる。
1846年2月 直弼・三十一歳は公務駐在で江戸へと旅立つ。長野主膳と村山たか女は大垣までついて行き、見送る。

1850年 兄の急死により、直弼は藩主となり彦根に戻る。
1858年 井伊直弼・四十三歳は大老に任じられる。長野を側近に抜擢し、将軍の後継問題と日米修好通商条約問題で尊壌派弾圧の行使を開始。
たか女は京都で女スパイとして活動し、そして世は安政の大獄へと向かう。

1860年3月3日 水戸藩による桜田門外の変で、直弼は暗殺される。
1861年2月7日 逃げていた長野主膳・四十六歳は処刑される。

1862年 たか女・五十三歳は隠れ屋で息子と潜んでいたが、発見され、息子が一刀両断で殺される。そしてたか女は三条河原で「生き晒しの刑」。三日三晩晒される。

『この女、長野主膳妾にして、主膳奸計を助けたる者。女子の身なれば死罪一等を減ず』  
村山たか女は女スパイらしく毅然と「生き晒しの刑」に耐え、三日目に助けられる。

その後、金福寺(こんぷくじ)に入り、妙寿(みょうじゅ)と名乗る。
ここで十四年の歳月を過ごし、そして1876年、村山たか女・六十七歳は女の一生を終えた。
近くの圓光寺で眠る。

約百五十年後の今、彦根の城下町を一望できる天寧寺(てんねいじ)、その高台に……

長野主膳義言(よしとき)の墓
桜田門外の変の血染めの土を埋めた井伊直弼の供養塔
圓光寺の村山たか女の墓から移されて来た土の上に建つ碑。
彦根城を背に、三人は仲良く並ぶ。

【諜】とは、こんなドラムを生んでしまう漢字なのだ。