天つみ空に・其の一
その女そっくりの娘を、今、自分は手に入れることができる。そう思った時、多少の無理をしてでも借金の肩代わりをしようと思ったのである。お逸を養女ではなく、女房として迎え入れたのも、結局はそんな下心があったからだと言われれば、否定はできない。もし、言葉どおりに娘として引き取るのならば、何もわざわざ女房にしなくとも良かったはずだ。それを祝言まで挙げて妻にしたからには、いずれはお逸を我が物にしたい―という欲望があったからではないか。
だが、それは、いかに清五郎自身だとて、認めたくはないことであった。そうなれば、自分はお逸を結局は金で買ったことになる。清五郎が借金を返してやらなければ、お逸はあのまま吉原遊廓へと売られてゆく運命にあった。廓で艶めかしい緋縮緬の襦袢を纏ったお逸を抱くのは悪くはない。
しかし、女郎になれば、たとえ水揚げをしてお逸を女にしてやることはできても、また他の男にお逸が抱かれるのも容認することになる。お逸が自分以外の男に抱かれることなぞ、想像もしたくない。許せなかった。
いくら自分のしたことを正当化しようとしても、ここまで来ては、できるものではない。お逸を抱く気が端から毛頭なかったなどというのは、真っ赤な嘘だ―。お逸を引き取ってから、次第に惹かれていったというのも間違いだ。確かに、一つ屋根の下で暮らすようになり、これまでより余計に心を奪われたことは否定しようはない。だが、たったそれだけで、いきなり考えを翻し、善人ぶるのを止めたわけではない。清五郎には、最初からお逸を我が物にしたいという野心があったのだ。
清五郎にはもう一つ、重大な気がかりがあった。それは、彼に対するお逸自身の反応だ。つい先刻もお逸の部屋を訪れたら、泣いていたらしく涙ぐんでいた。潤んだ瞳で何の邪心も疑いもなく真っすぐに見つめてくる娘に、柄にもなく身体が熱くなった。
あのままずっと二人で居続ければ、自分がお逸に対してどのような態度に出るか判らず、内実は這々の体で部屋を出た。むろん、そんなことは表には出さなかったつもりだが。
―養女(むすめ)に暗い情動を感じて、どうなるというのだ。
部屋を出てしまうまでは、己れにそう言い聞かせて、必死で心の均衡を保とうとした有り様だ。いずれ我が物にするとしても、今は時期尚早だ。清五郎は、今はまだお逸に要らぬ警戒心を与えたくはなかった。
が、お逸の方はといえば、ほんの少し清五郎の身体とお逸の身体がかすっただけで、汚物に触れたように怯えて飛びすさって逃げた。