神ノ王冠を戴きし者
『第四話 模擬戦〔1〕』
レオン、アスナ、ケビンの三人は昼食を済ますと闘技場へと来ていた。このエルニア学園は超がつくほどのエリート学校で国とは別に独自に街を持っている。その中には彼らが住む寮がある学生区、校舎がある中央区、闘技場や校庭がある学業区、様々な物を売っている商業区がある。そしてその孤島を橋で繋いだ場所が王都だ。三人は早めに来て準備を進めるシオンに駆け寄り、先程の出来事を伝えた。
「あら~、かっこいいわね。」
「ですよね! 」
シオンとアスナが和気藹々とガールズトークをしていると、レオンが顔を真っ赤に染め上げる。それを見てケビンはニヤニヤと笑っている。一通り話し終えたのかシオンがレオンに向けてニヤニヤしながら言った。
「じゃあ、かっこいいレオン君の為にお姉さん一働きしますか! 」
「……ありがとうございます。」
レオンは顔を真っ赤にして小さく礼呟いた。
◆◆◆
シオンのクラス……A組の皆が続々と闘技場へ集まってくる。全員が集まったのを確認するとシオンは授業内容を話し始める。
「さぁ、皆楽しみ模擬戦を始めます。ルールは簡単、魔法有り・魔神機有りだす。攻撃は身体には響きませんが精神力に直接来ますのでそこだけは注意してください。後、今日は女の子を賭けた決闘があるのでお楽しみに!! 」
シオンが話し終えると皆それぞれ対戦を組み始めた。
「アスナ、俺とやらねぇ? 」
「いいよ、ケビン。いたぶってあげる! 」
「お前が言うと洒落にならねぇな。……しかも笑顔で言うなよ。」
「アスナ、ケビンが可哀想だから責めて半殺しにしてやれよ。」
「わかってるって、レオン。」
「……お前ら、色々可笑しいよ。」
ケビンがさりげなく隅の方でいじけていると、先程の男子生徒・・・・・・アシスが数人の男子を引き連れて近づいてきた。
「はっ! 劣等生ごといが俺に決闘など馬鹿馬鹿しい。10分もかからずに終わらせてくれる!」
「実に楽しめだよ……。」
アシスの罵倒をスルーし、さりげなく辺りに殺気を振り撒くレオン、レオンの腕に抱きつきながら睨むアスナ、隅の方でまだいじけているケビン。それを見てシオンはポツリと呟いた。
「……カオスね。」
◆◆◆
今、闘技場にはアスナとケビンが対峙していた。シオンは浮遊魔法で二人の頭上を浮遊している。
「それではアスナ・エクシオン対ケビン・アルビオンの模擬戦を開始します。」
シオンが上空に退避するのを確認すると二人は右腕を上げる。二人の右腕にはブレスレットを着けている。アスナの物は水晶を幾つも連ねた数珠のようなデザイン、ケビンのは赤銅色の鉱石を嵌め込んだ金色のブレスレットだ。二人は同時にブレスレットに魔力を流し、言霊を唱える。
「「起動《Start-up》!! 」」
言霊に応じ、ブレスレットは魔力を吸い、本来の姿である魔神機へと形を戻す。
「さぁ! 行くよ、ケビン。」
「おう! 」
アスナは鞘から《メシア》を引き抜くとケビンに向け素早い突きを繰り出す。ケビンは《アスカロン》の幅広い刀身で的確に防御していく。アスナはらちがあかないと思い、後退。素早く魔法を唱える。
「『我に仇なす敵を排除せよ、《プファイル・リヒト》』」
アスナが唱え終えると彼女の周囲にたくさんの光球が現れ、彼女の合図とともに放たれる。ケビンは追撃を諦め、彼も素早く魔法を唱える。
「『我に仇なす敵を排除せよ。《プファイル・フランメ》』」
詠唱を終えると彼の周りに火球が幾つも放たれ、アスナの光球を打ち消していく。ケビンが再びアスナを攻めようと顔を向けるとアスナから魔力の濁流が放たれていた。この濁流は攻撃ではなくただの魔力の流れにすぎない。ケビンは冷や汗を流しながら目を見開く。その濁流の先にはアスナが《メシア》に魔力を込める。
「行くよ、ケビン。『我に応えよ《メシア》。《エアヘーエン・クラフト》』」
唱えた瞬間にアスナは残像を残しながら消え去る。ケビンは本能に任せ、横に《アスカロン》を振る。そこにはいつの間にか《メシア》の刃があり、鉄と鉄の擦れる音が鳴り響く。
「流石ケビン、ちょっと頑張ったのになぁ。防がれちゃった。」
「アスナは俺を殺すつもりかっつうのぉっ! 」
ケビンはアスナを体重移動を組み合わせながら吹き飛ばす。アスナは笑いながら吹き飛ばされるがすぐさま残像を残して消え去る。
「・・・・・・まじかよ。」
ケビンは小さく呟いた。アスナの先程の魔法《エアヘーエン・クラフト》は《メシア》の特殊魔法の一つだ。刃を鞘から引き抜いた瞬間から術者の魔力を喰い、身体強化を施す。そしてあの詠唱を唱えた瞬間から通常の人間では耐えることすらできない速さを生み出す。そしてアスナは何故か耐えきれるのだ、しかも笑う余裕さえあるのだ。ケビンは魔力を《アスカロン》に流し込む。アスナもそれに気付いたのか元気に笑う。
「さてケビン。そろそろ終わりにしようか! 」
「ああ! 『我に応えよ《アスカロン》。《ゲシュペンスト・フランメ》』!」
詠唱を終えるとケビンは《アスカロン》を大地に突き刺す。そしてその周囲の大地から炎が吹き出し、蠢き、動物の形へと変化する。これが《アスカロン》の特殊魔法《ゲシュペンスト・フランメ》だ。術者の魔力を喰い、炎を動物の形へと変化させる。そしてその動物達はケビンの思いのままだ。
「いくぜぇ! アスナ。」
ケビンの叫びに応え、炎の動物達はアスナへと向かう。アスナは先頭の一体を切り裂くと突然その一体が爆発する。それにつられて動物達は次々と爆発していき、遂にはアスナは見えなくなってしまった。
「・・・・・・やったか? 」
ケビンはゼエゼエと息を吐くとアスナがいた場所が見えてくる。そして煙が晴れていくに連れケビンは目を見開く。何故ならその場にいるアスナは無傷だった。
「嘘だろ!? 」
ケビンは悲鳴を上げる。アスナは《メシア》を構え、ニッコリと笑う。
「次は私の番だね! 」
アスナは誰も喋らない闘技場の中心で朗々と詠唱する。
「『神に創造されし精霊達よ。光は原初を生み出し、光は秩序を整える。罪深き者達に裁きを与えたまえ! 《クロイツ・ヒルフェ》』」
「ちょっ、アスナ! 俺死ぬぅぅぅう!! 」
アスナが詠唱を終えると地面から現れた鎖によりケビンを縛る。そしてその上から巨大な十字架が真っ直ぐ落ちると同時に周囲から光の濁流が迸る。
「ギャァァァァァァッァァアア!! 」
ケビンの悲鳴が響き渡ると我に返ったのかシオンが助けようとするが十字架の真下から炎が迸る。
「殺す気かぁ! 」
「テヘッ! 」
「テヘッで済むかぁ!! 」
追いかけ回すケビンからアスナが笑いながら逃げるのを生徒達は呆然と眺めていた。