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神ノ王冠を戴きし者

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『第五話 模擬戦〔2〕』



 結局アスナを捕まえられなかったケビンは観客席に移り、ボロボロの身体をアスナの治癒魔法で治して貰いながらレオンの方を向いた。
「よぉ、ケビン。見事にボロボロだな。」
「全くアスナは何で 《クロイツ・ヒルフェ》なんて放つんだよぉ! 殺す気かっつうの! 」
「? 、殺す気だったよ? 」
「……マジかぁ。」
 ケビンが本気で落ち込んでいる。レオンはなんとも言えず引きつった笑みを浮かべていた。
 アスナが放った光属性魔法 《クロイツ・ヒルフェ》は上位に属される魔法でまず地面の魔法陣から放った光の鎖で対象を縛り付け、上空に膨大な魔力と光を内包した十字架を形成、それを落とすと同時に魔法陣からも光の濁流が襲う強力な魔法だ。
 よく生きていたもんだ、とレオンは思いながら二人を眺めていると、アスナは不思議そうに首を傾げた。
「レオンは試合を見てなかったの? 」
「ああ、俺は『アレ』が出てこないか見張ってたんだ。今の所は出て来ていないがアスナも気をつけていたほうがいいよ。」
「そっかぁ。ごめんね、面倒をかけて。」
 レオンとアスナが話しているとケビンが復活したようだ。アスナが改めて謝っていると闘技場が直ったのかシオンの声が響く。
「闘技場の修復が完了したのでレオン・アルゲリード、アシス・グランフィールドの両者は闘技場中央まで来てください。」
「さて、行ってくるか。」
 レオンがゆったりとした動作で立ち上がるとアスナが袖の端を掴んできた。レオンがアスナの方を見るとアスナは涙目で小さく呟いた。
「……負けないでね。」
「大丈夫だって……。」
レオンはそう言いながら屈み込み、アスナの耳元で呟いた。
「君は誰にも渡さないから。」
アスナはそれを聞いて目を見開くとみるみる顔を真っ赤に染め上げていく。ケビンは不審そうにレオンを見たが彼は嬉しそうに闘技場中央へと歩いていった。

◆◆◆

 レオンとアシスが闘技場中央に来るとテンションが以上に高めのシオンがマイクを片手に喋りだす。
「やって参りました、決闘です! 対戦する人物はグランフィールド家の次男坊、アシス・グランフィールドと平均点を97点でこの学園に入った劣等生、レオン・アルゲリード! 」
シオンの声に応え、周囲に愛想を振り撒くアシスとただ目を閉じているレオンとでは明らかに対となっていた。
「それでは両者始めてください! 」
 それに応えて両者は魔神機を起動、アシスは片手剣をレオンは魔典 《デュランダル》を手に持つ。
「食らえ! 劣等生!! 」
アシスは高速で振り抜き、雷を纏った衝撃波が幾つもレオンに向かってくる。
 レオンはそれに動じず、一枚上の栞を取り出す。すると 《デュランダル》のページがパラパラと高速で開いていき、ある場所でピタリと止まる。そこに栞を挟むと本を閉じ引き抜く。突然栞から膨大な魔力が吹き出し、栞が煌めいた。それをレオンは衝撃波とアシスに向けて放つと呟く。
「『復元《レストレーション》、剣ノ戦争《デーゲン・クリーク》』」
 その言葉を合図に栞が消滅し変わりに魔法陣が展開され、そこから次々と多種多様な剣が射出される。
「……はっ?」
そうアシスは小さく呟いた。何故なら劣等生が技を放った瞬間に自身の前に広がる光景は剣の濁流。それは全て自身に向けて放たれている。しかもそれは自身が放った衝撃波をいとも簡単に破壊し、先程と同じ速度で迫ってくるではないか。それは彼の恐怖心を煽り、彼は魔力を込めた脚で後ろに後ずさる。もちろん衝撃波は忘れない。
 しかし剣の濁流は止まらない。失速した剣は粒子となり無くなるが、すぐに新しい剣が迫ってくる。
「くそっ! くそっ!! 」
アシスが焦りながらも様々な魔法を放つが効果はない。
 レオンはその光景を魔法陣を維持しながら眺めていた。そして目だけで辺りを見回すと殆どの生徒が口を開けてポカンとしている。
 この《デュランダル》は他の魔神機とは一風変わった物だ。理由はこれは『過去』を重視するのだ。能力はこの本に記された魔法や物質を『文字』から『物体』に具現化する。勿論デメリットもあり、これは膨大な魔力を必要とする。そのため生物を具現化しようとするものならば一瞬で魔力が底をつくだろう。それぐらいの勢いで消費する。またこれは使用者がそこに書かれた仕組みを完全に理解する必要もある。
 レオンは再びアシスを見ると地面に尻を着いていた。どうやら腰を抜かしたらしい。彼は丁度アシスの前で剣の濁流を停止した。
「し……勝者、レオン・アルゲリード。」
シオンの声を聞き、レオンは魔法陣を消す。それと同時に剣も粒子となって消えていった。それを確認した上で彼は観客席に戻ろうとする。その時アシスは小さく、しかしレオンが聞こえる位の音量で呟いた。
「ば……化け物。」
 そのまま廊下に入ったレオンの表情には影が差しており、口元には自嘲の笑みが刻まれていたが、それにはある人物以外気付かなかった。

◆◆◆

 ──観客席にて。丁度レオンが廊下に入った頃に突然アスナは席を立った。
「? 、どうかしたのか? 」
「ちょっと用事ができたからケビン、荷物見ててくれない? 」
アスナはそう言いながら首を傾げているケビンの方を向く。そして次の瞬間、アスナの顔を見てケビンの動きが停止した。何故ならアスナの目が据わっているからだ。しかも顔は微笑んでいるのに目が笑ってないときた。
「お、おう……。(超怖ぇぇぇええ!! )」
 アスナは廊下に出ると早足で闘技場中央へ向かう通路に向かう。そこには壁に背を預け、座り込んでいるレオンがいた。
「(“化け物”か……。どんなに隠していても、どんなに偽っていても、結局俺は)……化け物なのかな。」
レオンは誰も居ない廊下で結論を呟いた。
「そんなことないよ。」
そこで誰もいないはずの廊下で返答が返ってくる。レオンはゆっくりと顔を上げた。そこにはいつも支えてくれる可憐な少女、アスナがいた。
「そもそも自分が化け物か考える時点でその人は人間なんだよ。」
「それはなんでだ? 」
「だって自分の存在について詳しく考えるのは人間しかいないから。だからレオンも、私も人間なんだよ。」
アスナはそう言うとレオンを優しく自身の身体で包み込む。その暖かさと日溜まりのような匂いを感じながらレオンもアスナを抱く。
「……レオン。」
「……アスナ。」
そしてお互いの名を呟くと唇を重ね合わせる。ただ重ね合わせるだけの軽いキス。しかし二人はお互いを確認しあうかのごとく重ね続ける。
 それから数分後、お互いに唇を離すと額を重ね合わせ、優しく微笑む。
 彼らは亡き両親が取り決めた婚約者同士だ。勿論それはお互いの了承も得た関係だ。それは本当はもう取り消しても構わないのだ。しかし二人はその取り決めを消さない、それはお互いに愛し合っているからだ。
 「なぁ、アスナ。」
「? 、なぁにレオン。」
「改めて言おうと思うんだ、……俺と結婚してくれませんか? 」
その途端、アスナは涙目で微笑んだ。その光景はとても美しくて、綺麗で、絵画のように感じられた。
「……喜んで!! 」
アスナは嬉しそうにレオンの胸に頭を擦り寄せてくる。レオンはそんな彼女の絹のような茶髪を手で解かしながら、抱き寄せた。
作品名:神ノ王冠を戴きし者 作家名:星來