帰り道
「渡したんだよね」
「はい」
「言ったんだよね」
「はい。手を握って」
「ごめん…ごめんなさい」
「いえ」
「ほかには、なにか……した?」
「言ってもいいですか?」
「いや、やめておいてくれるかな」
「わかりました」
男は、やっと手を引っ込めることができた。
「捜しました。何か手がかりはないかと尋ねたりして」
「それを返しに?」
女は頷いた。
「わかって、車を見つけて、ここで待っていればと。で、駐車場で待ちました。でも」
「でも、私は、ずっと残業だった。会えなかったんだ」
「そしてあの日、車のロックが開いていて、勝手に乗り込んで寝てしまった。
ごめんなさい」
「悪かったね」
「いえ、嬉しかった。嘘だとわかっていたけど、嬉しかった。でもお返ししないと」
「いいよ。あげるよ。もう必要ないから。給料の何ヶ月分とは言わないけど、迷惑料だ」
男は、指環を女の前に置いた。
女は、またバッグを開け、何かを出した。
「これも」
男の前に出されたものは、飛んだボタンとUSBメモリ。
「大事なものじゃないかと思って。あ、ごめんなさい。何かわかるかと開こうとしました」
「できなかったでしょ」
「はい。パスワードが掛かってた」
「そうなんだ。これ。今の私には指環よりも重要なものなんだ。これ、どこで?」
「あの店で…指環と一緒に『今の誠意だ!』って」
男は、先ほどまでの強気な態度が折れた。笑顔をこぼした。